管理職の負担をラクにする部下の育成とコーチング

もし、あなたが管理職なら、一度ぐらいは、部下に対して、「もっと自分で考えて動いてくれたらいいのに……」と思ったことはありませんか。

言ったことはきちんとやってくれる。けれども、いつも指示を求めてきて、「どうすればいいですか?」「具体的に指示してくれないと困ります」のように言ってくる……そのため、上司は細かいことまで考え、指示しなければなりません。

管理職はやるべき仕事がたくさんあって忙しい。だからこそ、仕事を任せられる「自発的な部下」を育成する必要があるのでしょう。そうすれば、管理職の負担は軽減されずはずです。

もし、このようなお悩みをお抱えでしたら、コーチングがあなたの悩みを解決する一助になるかもしれません。

筆者は管理職時代に自発的な部下を育成する方法に悩み、インターネットやさまざまな分野の本を調べた結果、その解決策がコミュニケーションにあることに気づきました。コーチングを勉強し、職場で実践したところ、部下が自発的に意見を言い、積極的に動いてくれるようになり、顧客からも評価されるようになりました。

そこで、部下の育成におけるコーチングについて、お話したいと思います。

コーチングとは?

コーチングは「対話」を通じて、「自分で考え、自分にとっての最適な解決策を導く」ことを支援するコミュニケーションスキルの一種です。詳しくは、コーチングとは何か―不透明な時代の「自分で考える力」をご覧ください。

コーチングの具体的な方法

コーチングは、部下に「手取り足取り教える」というよりも、「自分で考えるように促す」コミュニケーションの手法です。その方法として、「質問」を使います。

たとえば、「この資料、どのようにまとめたらいいですか?」と尋ねてきた部下に、一般的には、「それは、このようにしなさい」とアドバイスするでしょう(参考:本当に大切なのは?ティーチングとコーチングの違いとポイント)。しかし、アドバイスをし続けていると、ずっと指示を求めてくるかもしれません。

このような状況で、「自分で考えるように促す」ためには、どのように関わればいいのでしょうか。

拙著、「職場がツライ」を変える会話のチカラ」には、筆者が部下の育成で体験した次のようなエピソードを紹介しています。

 

私のチームに、T君というエンジニアがいました。

T君は、技術力があり、いわれたことはやりますが、それ以上のことは自発的にやろうとしない人でした。

口癖は「○○さんが、そういっているから…」。お客様との打ち合わせに使う書類も、過去に作ったものをコピー&ペーストして持っていくようなタイプです。

T君が、これから開発しようとしているプログラムの、設計書を書いたときのことです。顧客に確認してもらいにいく前に、書類の品質チェックを受けるために、その設計書をもってT君が私のところへきました。

「竹内さん、設計書ができました。これでいいでしょうか?」

以前の私は、書類の全体をチェックして、「ここは、○○ではないよね。△△のほうがいいよ。」とアドバイスしていました。

しかし、そのときの私は、T君にもっと考えて欲しい。コピー&ペーストでOKにしないでほしいと思っていたので、「問いかけて」みることにしました。

私 「T君は、この設計書の出来をどう思っているの?」

T君「そうですね、いままで指摘されたところはチェックしました」

私 「じゃあ、もっと良くするには、どうしたらいいと思う?」

T君「○○のあたりが、あまり具体的じゃないような気がします。もっと○○にしたほうが、いいかなぁと思いますけど」

私 「あぁ、それはたしかに、わかりやすくなるね。そのように修正できる?」

T君「わかりました」

こうして問いかけることで、私がアドバイスをしなくても、T君は自分なりに改善点に気づき、その解決法を考えてくれたのです。私は「問いかけ」の効果を実感しました。

その後もT君とは、こうしたやり取りを何度かしました。

そして、ある日のこと。いつものように、T君が書類を私のところに持ってきました。

「竹内さん、書類のチェックをお願いします」

そこで、私がざっと書類に目を通し、言葉を発しようとした、そのときです。

「あ、自分で考えなきゃいけないんでしたね。もう少し考えてから、また持ってきます。」そういって、去っていったのです。この言葉を聞いたときは、本当に嬉しかったですね。

出典:「職場がツライ」を会話のチカラ | Amazon

このように、コーチングには、部下の自発性を育成する効果があります。

部下育成におけるコーチングのメリット

部下育成におけるコーチングのメリットをまとめました。

部下の自発性を育成する

筆者が体験したエピソードにもあるように、普段のコミュニケーションの中に質問を取り入れるようになると、部下の「自分で考える力」や自発性を育成します。部下の自発性が育てば、「仕事を任せられる」「新しいアイデアが生まれる」「チームが活発になる」など、それに伴いさまざまなメリットが生まれるでしょう。

部下との関係や職場のコミュニケーションがよくなる

職場のコミュニケーションにコーチングの要素を入れると、「質問する」→「答える」→「傾聴する」という流れができるため、上司と部下の間で交換する情報量が必然的に増えます。そのため、部下との関係や職場のコミュニケーションがよくなる可能性があります。

職場でやりやすくするための方法

コーチングは質問と傾聴を中心にしたコミュニケーションスキルですが、一朝一夕でできる……というものではないかもしれません。筆者自身、経験を積み重ねていく中ではたくさんの失敗もしました。

また、コミュニケーションはその時々、一刻一刻変化していくものなので、「相手の話を傾聴しながら、次に何を質問するか考えて……」のように、瞬間的に考えながら会話をすることは、経験をつまないと難しいのも、実際のところです。

一方、職場の中では自発的な部下の育成が求められているのも事実で、特に、現在のような変化の早い時代には、「自分で考える力」はとても重要でしょう。

管理職はただでさえ忙しいので、職場の中で実践するためには、複雑で難しいコミュニケーションスキルよりも、シンプルで、分かりやすいことが重要です。

たとえば、トライアングルコミュニケーションモデルは、コーチングを一枚のチャートを使って行います。効果的な質問の流れがチャートのパターンとして体系化されているため、チャートを描きながらコーチングすることで、頭の中で「次に何を問いかければいいか」を意識することなしに、自然とコーチングをすることができます。

まとめ

部下を育成するのは本当に大変な仕事ですね。しかも、昨今では多様な価値観を持った人が増えています。一昔前のような「右へならえ」という指示命令でよかった時代とは、違った難しさがあるように感じます。

しかも、管理職はやるべき仕事がたくさんあって忙しい。だからこそ、仕事を任せられる「自発的な部下」を育成する必要があるのでしょう。そうすれば、管理職の負担は軽減されずはずです。

あなたの負担が軽くなり、楽しく働けることを願っています。

投稿者プロフィール

竹内義晴
竹内義晴NPO法人しごとのみらい理事長
1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。

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