コーチング研修の企画時にチェックしたい6つのポイント

日本経団連が2014年9月に発表した新卒採用(2014年4月入社対象)に関するアンケート調査結果の概要によれば、新入社員の選考時に重視する要素は11年連続で「コミュニケーション能力」が第一位なのだそうです。それだけ、ビジネスシーンではコミュニケーション力が重要視されているのでしょう。

新入社員に限らず、リーダー層のコミュニケーション力も重要ですね。なぜなら、スタッフのやる気は、リーダーの言葉一つと言っても過言ではないからです。

リーダー層は一般社員と違い、スタッフをよりよい状態にリードする役割があります。そのため、「傾聴する」「動機付ける」といった一般的なコミュニケーションスキル以上に、さまざまな問題点に気づかせ、解決策を自分で考え、自ら行動できるようなリード力が求められます。

このような、リーダー力を高めるコミュニケーション力が、コーチングです。コーチングの発祥は海外ですが、近年では、ビジネスシーンにおけるコミュニケーションの重要性に気づいた企業では、コーチング研修が行われています。

そこで、コーチング型のコミュニケーションが求められている理由や、コーチング研修の内容、成果を出すコーチング研修を企画する際に意識したいポイントについてお話しします。

コーチングとは何か?

では、コーチングとはどのようなアプローチなのでしょうか。

しごとのみらいでは、コーチングを対話を通じて新しい思考を生み出すことと定義しています。新しい思考を生み出すために使うコミュニケーションスキルが、「問い」と「傾聴」です。

たとえば、部下のお客さまへの対応に問題があった際、「何でお客さまにあんな対応をしたんだ!」「お客さまへの対応は、もっと○○にしなさい」のように、叱咤激励したり、指示命令することもできます。一方、「今回の失敗で、気づいたことは何?」「この問題を解決するためには、どうすればいいだろう?」のように、問いかけることによって、部下に考えるきっかけを与え、解決策を一緒に考えていくようなアプローチをすることもできます。

コーチングスキルの詳しい内容は、以下の記事もあわせてご覧ください。

コーチング型のコミュニケーションが求められている理由

その前に、コーチング型のコミュニケーションが求められている背景についてお話しましょう。次のような事情があります。

ベストプラクティスがない時代

変化のスピードが早い現代は、他社の、過去の成功事例を自社に適応しても、取り入れたときには古くなっていて、なかなか成果が出にくい時代です。そのため、「どのようにしたら、お客さまに喜ばれるか」「どのようにしたら、社内がよりよくなるか」を、自分たちで常々考え、スピーディーに行動していく必要があります。

そのため、「自分たちで柔軟に考え、行動する力」が求められています。

これまでの関わり方が通用しない時代背景

一昔前は、指示命令や叱咤激励が、リーダー層が部下を育成する際のコミュニケーションの中心でした。一方、近年のリーダー層は、それらが若い世代に通用せず、部下の育成に頭を悩ませている人も多いようです(参考:支配型と支援型―時代背景にみる次世代リーダーシップとコーチング)。

たとえば、以前、40代の管理職から次のような相談を受けました。ITmediaに寄稿した記事より引用します。

「大きな声では言えないんですけどね。最近の若い人は弱いなあと思っているんですよ。竹内さんは今いくつですか? 42? 私の2つ下だから分かると思うんですけど、私たちが若いときは先輩からゴリゴリやられてきたじゃないですか。悔しい思いもたくさんしましたけど、チクショーと思って何とかやってきました。けれども、最近の若い人はちょっとキツく言うとすぐ落ち込んでしまって……。

昔は、私も先輩に『最近の若い奴は……』って言われてきましたけど、今では私もつい、そう言いたくなることがたくさんありましてね。それでも、若い人と一緒に仕事をしていかなければいけないから、どう接したらいいのか分からなくて……」

出典:「最近の若い人は……」と思ったら――世代間ギャップを埋める方法 | ITmeidaエンタープライズ

ある世代ひとくくりにして、ラベル付けをするつもりはありませんが、管理職世代の生の声を聴くと、このような悩みを抱えているリーダー層は多いようです。

コーチング研修の内容

一般的なコーチング研修は、次のような内容です。

目標の明確化

参加者同士で小グループになり、リーダーに必要な要素を洗い出します。研修の目標設定です。

  • 上司視点での「リーダーとして望ましい姿」
  • 部下視点での「リーダーとして望ましい姿」

現在のコミュニケーションの振り返り

参加者同士で小グループになり、「現状の問題点」や「困っていること」を洗い出します。現状把握です。お互いに困っていることを共有する役割もあります。

  • 現在の問題点や困っていることを明確にする

コーチングの基本スキルを身につける

コーチングに必要なコミュニケーションの基本スキルを身につけます。

  • 信頼関係構築力
  • 観察力
  • 傾聴力
  • 質問力
  • 承認や、ポジティブな視点へのリード力

コーチングの組み立て方

コーチングに必要な会話の組み立て方を身につけます。

  • コミュニケーションフロー

実践力を身につける

小グループのロールプレイ。学んだことを職場活かす実践力を身につけます。

研修を企画する際に意識したい6つのポイント

研修目的

コーチング研修の効果を最大限にするためにも、研修目的をはっきりさせましょう。

コミュニケーションに関わる研修を企画する際、意外と、「コミュニケーションが悪い」という直接的なことを研修目的にしてしまいがちです。一方、実際の職場では、「コミュニケーションが悪いことによって、起こっていること」があるはずです。

コミュニケーションは、情報をやりとりするツールです。「コミュニケーションが悪いことによって、何に困っているのか?」「コミュニケーションが良くなることによって、どうしたいのか?」――研修によって得たいことを明確にしておきましょう。

研修プログラム

研修内容は、研修提供者が固定的に提供しているものよりも、内容が柔軟にカスタマイズできるものを選んだほうがよいでしょう。なぜなら、研修に必要なものは、企業や職場によって異なるからです。

研修を企画する際、インターネットで検索して比較・検討されると思いますが、問い合わせの際には、「カスタマイズできるか」を確認してみるといいでしょう。その際に、気軽に相談にのってくれそうな雰囲気かも、合わせてチェックするといいでしょう。

時間・日程

コーチング研修の日程は、2時間程度のものから、数日かけて行うものまでさまざまです。当然のことながら、時間によって講義の内容は異なります。

コミュニケーションは一般的に、「知っていてもできない」ことが多く、知識よりも、「実際にやってみる」ことによって得るものが大きい特徴があります。充実した研修にしたいなら、少なくても半日、できれば、1~2日は確保したいところです。

期間を置いて、何回かに分けるのもいい方法です。たとえば、ある企業では、一月おきに、3回の研修を行いました。研修期間を空けることで、職場での実践期間ができるからです。実践期間で経験した内容を講座でフィードバックすることによって、より実践的な研修にすることができるでしょう。

研修内容

コーチング研修を企画する際のポイントは、「内容を詰めすぎないこと」です。

せっかく研修をするのですから、「リーダーのあり方もしっかりと学んで欲しい」「傾聴力もしっかり身につけて欲しい」「困った人への対応も……」など、さまざまな要素を取り入れたいのは当然のことです。

一方、「あれもこれも」という状態になると、研修参加者の頭の中が一杯になり、集中力が散漫になってしまいます。

研修内容はテーマをはっきりと決めて、時間に合ったボリューム感にするといいでしょう。そういう意味でも、事前の打ち合わせや、カスタマイズが大切になってくるわけです。

参加者

コーチング研修の参加者は、あまり多すぎないほうがいいでしょう。5~20名ぐらいが適正です。なぜなら、実践力を身につけるロールプレイ型の研修は、講師のフィードバックも重要です。そのため、講師が一人で関われるのが、20名ぐらいが限度だからです。

一方、少なすぎるのも問題があります。特に、ロールプレイ型の研修の場合、人数が少ないと、いつも同じ相手と練習することになってしまいがちです。

ロールプレイ型の研修ではなく、講師が一方通行で話す講演会形式ならば、人数を気にする必要はないでしょう。

予算

研修を開くには、予算も重要なポイントです。

コーチング研修の費用を調べてみると、ピンからキリまでさまざまです。BtoBで行われている企業研修では、2時間の講演形式ならば5~10万円程度、一日の研修ならば20~30万円程度が多いようです。

金額については、単に高い/安いで選ぶよりも、「研修によって、社員にどうなって欲しいのか」という視点で考えてみるといいでしょう。

数十万円のお金を動かすとなると、稟議を通すのも大変です。そのためにも、上に挙げた研修目的や効果、研修プログラムの内容などをよく検討してください。研修の依頼先に、必要な情報を提供してもらうのもいいでしょう。

まとめ

コーチング型のコミュニケーションが求められている理由や、コーチング研修の内容、成果を出すコーチング研修を企画する際に意識したいポイントについてまとめました。

コミュニケーションスキル全般に言えることですが、コーチングは、IT技術や、業務知識の習得とは異なり、「研修を受けたらすぐにできるようになる」というものではありません。ましてや、職場の空気や風土に変化を感じられるまでには、しばらくの時間経過も必要なのかもしれません。

一方で、時代の変化がはやい今、リーダー層のコミュニケーション力が求められているのも事実です。

研修効果を最大限にするためにも、人材育成に対するビジョンや、コーチング研修によって得たいことなどを明確にした上で、今、できることを確実に、実行に移していきたいものですね。

投稿者プロフィール

竹内義晴
竹内義晴NPO法人しごとのみらい理事長
1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。

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