トライアングルコミュニケーションモデルの開発経緯

なぜ、コミュニケーションスキルを追い求めなければならないのか?

「どうしたら、竹内さんのようにコーチできるようになりますか?」
「NLPって、どうしたら職場で使えるようになりますか?」
(※NLP:Neuro Linguistic Programming/神経言語プログラミング―コミュニケーション心理学の一種)

ある時期、このような相談を立て続けに受けることがありました。

「私、コーチングを勉強してきたんですけど、職場で実践しようと思っても上手くできないんです。竹内さんはNLPのトレーナーなんですよね。NLPってどうですか?コーチングのほかにNLPを勉強する必要ってありますか?」

「この間、NLPのトレーニングが終わりました。NLPは自分の考え方を変えるためにはとても役だったんですけど、職場でNLPを使おうと思っても、何だか上手く使えないんです。コーチングについて調べてみたんですけど、コーチングってよさそうですね。職場で使うためにはコーチングを勉強する必要がありますか?」

このような質問を受けるたび、私はこう答えていました。

「その必要はありませんよ。コーチングも、NLPも、どちらかを勉強すれば必要なスキルは身につきますよ」と。

けれども、何が腑に落ちませんでした。確かに、コーチングやNLPを勉強すれば、信頼関係を築くスキル、傾聴のスキル、問いかけのスキルなどを身に付けることができます。それなのに、なぜ、せっかく長い期間と高額の投資をして勉強してきたみなさんが、同じ悩みを抱えるのだろう?現場ですぐに実践できないのだろう……。

あぁ、振り返ってみたら私自身がそうでした。コーチングやNLPを勉強した直後、職場で実践しても、周りのスタッフをなかなか上手くリードすることができなかったのです。

上手く行かないのは、次のようなパターンでした。

    • 会話が相手に引っ張られてしまう
    • 逆に、こちらのペースで誘導してしまい、相手を不快にさせる
    • 自分がどこに向かってクライアントと接しているのかわからなくなる
    • 想定から外れると、会話を修正できなくなる
    • 課題が何なのかはっきりしない
    • 学習したパターン通りにいくことのほうが稀
    • 時間内にセッションを終えることができない

そして、「あ~あ、今日も部下やクライアントを上手くリードできなかったなぁ」とため息をつきながら肩を落とす……。そんな毎日だったことを思い出しました。

上手くできないことを知り合いのコーチに相談したら、彼はこう言いました。

「それは、経験で身に付けるしかない」と。

まぁ、それはそうなんでしょうけれど……何とも不親切に思ったものです。

よく考えたら、私も当時相談した彼と同じ受け応えをしていることに気がつきました。きっと私に質問してくださった方も解決策がなく、困っているに違いありません。

「なぜ、私は今、クライアントを望ましい姿にリードできるようになったのだろう?」

そうしたら、ふと気がついたのです。

「そう言えば、ボクは頭の中で、会話の流れをイメージして組み立てているよな」と。

その瞬間、既存のコミュニケーションスキルに足りないものが見えてきたのです。

既存のコミュニケーションスキルに足りないもの

私がコーチングやカウンセリングを行う際に、「今はここだから、次はここに行って……」というように、頭の中である三角形をイメージしながらやっていることに気づきました。そこで、そのイメージを紙に書き出すことにしました。そこで、私はハッと気がつきました。

「そうか!多くのコミュニケーションスキルには、『会話の流れ』が無いんだ!」

コーチングやNLPでは、次のようなことを学びます。

  • 信頼関係(ラポール)の築き方
  • 傾聴の仕方
  • 問いかけ方
  • 相手をより良い姿にリードする方法

コーチングやNLPに限らず、多くのコミュニケーションスクールでは、多少のやり方や呼び方の違いはあれど、学ぶ内容は同じです。

けれども、いくら信頼関係を築けても、いくら相手の話を上手に聞けるようになっても、「これらをどう組み合わせて相手を望ましい姿にリードするのか」という、「会話の組み立て方」や「会話の流れ」を学ばないのです。だから、最初に何を問いかけたらいいのか分からないし、どう展開させていたたらいいのか分からない……。

いや、正確に言えば、会話の流れを示したものはあります。けれども、クライアントがそのパターンで話してこなければ、結局、そのパターンは使えなくなってしまいます。

それはまるで、地図がないドライブのようなものです。車は運転することができる。けれども、目的地までの地図がない。それはもう、闇雲に走ってゴールを目指す、不安の多い旅のようなものです。

そこで私は考えました。

「そうか、”コミュニケーションの地図”があれば、現場でもすぐに実践できるかもしれないな」と。

それが、トライアングルコミュニケーションモデル開発の原点でした。

早速、自分の考えをテキストにまとめました。

私の方法論が通用するのか、コーチングやNLPを学んだ経験のある知人2人に、都内のあるカフェでそのテキストを初めて見せました。全体の流れを説明すると、お2人はこう言いました。

「コーチングって、本当はこんなにシンプルなものだったんですね。今まで私が勉強してきたコーチングって、何だったんだろう?」

「これはシンプルだけど本当に実践的。これなら誰でも簡単に身に付けられますね」

お2人のご意見に気を良くした私は、さらに精度を良くするためにテキストの改良を始めました。

当初は「トライアングルコミュニケーションモデル」ではなかった

初めてお話するのですが、開発当初、トライアングルコミュニケーションモデルのネーミングは「トライアングルコーチングモデル」と呼んでいました。なぜなら、当初はコーチングを中心に「誰もが簡単にできるようにしたい」と考えて開発したものだったからです。

しかし、テキストの改良を重ねていくにつれて、

「あれ?トライアングルコミュニケーションモデルは、問いの流れを逆方向にするだけでコーチングだけではなく、カウンセリングにも使えるモデルだぞ!」

ということに気がつき始めました。そのキーワードは「得る」と「失う」。コーチングは何かを「得たい」から行うのですし、カウンセリングは何かを「失っている」から行うのです。違いは、方向性だけだということが分かってきたのです。

実は、コーチングもカウンセリングも、基本的なコミュニケーションスキルには大きな違いはありません。けれども、私が勉強したコーチングのテキストには、「コーチはカウンセリングをしてはいけません。カウンセリングは専門家に任せましょう」と書かれていました。何の知識もなかった当時の私は、「確かにそれはそうだな。出来ないことにはあまり首を突っ込まずに専門家に任せた方がいいな」と思っていました。

けれども、実際の現場でクライアントと接してみると、コーチングのような「○○になりたい」という希望を持っている方でも、現状はできていないので悩んでいますし、いつも前向きでポジティブなわけではありません。時には、カウンセリングのような関わり方が必要でした。また。カウンセリングのような「○○で悩んでいる」方も、最終的にはよりよい未来を描きたいと思っているのです。

さらに、実際の職場では、社員がみんな希望を持っているわけではありません。悩みを持っている人の方が、むしろ多いのが実際です。そのようなとき、「私はコーチングはできますがカウンセリングはできません」では、困ってしまいます。そのように考えていた私は、「これはコーチング」「これはカウンセリング」というように分類するのは少し違うように感じていたのです。

「○○療法や催眠のような、心理カウンセリングで使う特別なことはできなくてもいい。それよりもむしろ、誰もが簡単に、周りの人の話を聞くことができ、望ましい未来にリードできるスキルがあったら……。これができるトライアングルコミュニケーションモデルは、きっと多くの方の役に立つに違いない!」

そう感じた私は、「トライアングルコーチングモデル」から、より広義な、「トライアングルコミュニケーションモデル」に改名したのでした。

コミュニケーションモデルが思考モデル、ノート術に進化

出来上がったテキストを元に、早速「トライアングルコミュニケーションモデル実践講座プレセミナー」という4日間の講座を開催してみることにしました。「プレセミナー」としたのは、実際にお伝えしてみることで、モデルの精度をさらに上げようと考えたからでした。

最初の2日間の中でコミュニケーションの基本をお伝えし、残りの2日間でトライアングルコミュニケーションモデルをコーチングとカウンセリングのシーンで使う方法についてお伝えしました。

受講者のみなさんは、まだ得体も知れないコミュニケーションモデルであるにも関わらず熱心に取り組んでくださいました。

その中で、ある方がご自身の考えをトライアングルコミュニケーションモデルを使ってノートに書き出すことで、頭の中が整理できることを見出し始めました。実は、私も少し前から、セミナーのコンテンツを整理する際や、文章の原稿を考える際、頭の中を事前に整理するためにこのモデルを使ってノートに書き出すようにしていました。受講者が言うように、確かに頭の中が整理できるのです。

私は以前からマインドマップというノート法が好きでした。頭の中を整理するのに、マインドマップは最高だと思っていました。しかし、トライアングルコミュニケーションモデルのノート法は、マインドマップの要素も兼ね備えながら、何か、違う次元の思考ができることに気がつき始めていました(後に、マインドマップとトライアングルコミュニケーションモデルとの違いは、マインドマップは「発散思考」であるのに対し、トライアングルコミュニケーションモデルは「発散+収束思考」であることが分かりました)。

受講者の一人は、実践講座のアンケートでこう述べています。

コミュニケーションというと「他人と」ということが浮かびますが、セルフコミュニケーションがその根本だと思いました。

そのためのツールとしてTCMを学ぶことができたのはとてもよい機会でした。

頭の中でやってしまわず、TCMで書き出すことで全体を見渡すことも関連づけることもできます。

ありがとうございました。

そうです。トライアングルコミュニケーションモデルは、自分自身と対話することにも適した思考法でもあったのです。

コミュニケーションのモデルが、思考モデル、ノート術に進化した瞬間でした。

あるボランティア組織で―TCMがファシリテーションに使えるか?

「他に、どんなところでこのモデルが使えるのだろう?」

実践講座プレセミナーが終わり、さらにこのモデルの研究を重ねました。

それは、2012年の雪が降る寒い日でした。私は、あるボランティア団体から依頼を受け、地域活性化に関するサポートを依頼されました。

冷たい手をこすりながら公民館らしき会場に入ると、比較的年代が上の男性が集まっていました。その地域では過疎化が進行しているとのこと。若い世代にも活動に参加してほしい。けれども、若い世代はなかなか参加してくれない……地域の衰退が目の前に迫る中、どのようにしたらいいのか悩んでいらしたのです。

どのようにすれば、地域が活性化するのか、私は地元の地域で若干の経験があっても、人前でお話するほど専門的な知識があるわけではありません。そこで、みなさんの前に立ち、みなさんが自らの力で解決策を探せるよう、司会進行(いわゆる、ファシリテーター)を務めることにし、ファシリテーションにトライアングルコミュニケーションモデルが有効なのかも含めて、実験してみようと考えました。

まずは、現在抱えている悩みを伺いました。

クリックで、実際にファシリテーションで使った様子がご覧いただけます

真ん中に「地域の人が集まって、魅力的な資源を活かすためには?」と書き、トラアングルコミュニケーションモデルのヒアリングスタイルに沿って、現在起こっている課題を、下に矢印を伸ばしながらヒアリングしていきました。

  • 「人員負担のかたより」
  • 「金銭的な負担」
  • 「計画がない」

など、さまざまな意見が出されました。

続いて、「それが叶わないことによって、失われていくこと」について、上に矢印を伸ばしながらヒアリングしていきました。

  • 「時間を失う」
  • 「気持ちの上で不満」
  • 「周りの人が楽しめる機会がなくなる」

などの意見が出されました。

最後に、私はこう伺いました。

「地域の人が集まって、魅力的な資源を活かせないことで、時間を失ったり、気持ちの上で不満を抱いたり、みなさんが楽しめる機会がなくなってしまうのですよね。それによって、何が失われると思いますか?」

すると、ある方がこう言いました。

「人のつながりが薄れていく中で、地域を次世代に残せない」

と。私はみなさんを見ながら、こう言いました。

「なるほど!みなさん、本当は、人のつながりを大切にして、資源が豊富なこの地域を、次世代に残していきたいと思われていらっしゃるのですね?」

すると、ある人はハッとした表情になり、ある人は大きくうなづきました。みなさんが本当に望んでいることが共有できた瞬間でした。冷たい雪の中、会場は"一体感"という暖かさで包まれたのです。

その後、新しい模造紙に「人のつながりを強くし、地域を次世代に残していくためには?」というテーマで、改めて解決策をみなさんで話し合いました。気持ちが1つにまとまった場から意見が途切れる間もなく出て、無事、解決への方向性を見出すことができました。

最後に、地域の代表の方が、こうおっしゃっていました。

「本当は、地域を活性化するための方法をアドバイスしてほしかったんですけど、問題を解決するというのは、そういうことではなかったんですね。竹内さんのおかげで、みんなが抱えている課題を共有でき、解決策を見いだすことができました。ここから先は、自分たちでも考えられそうです。具体的な内容は、今日来ていなかったメンバーも含めて改めて相談してみます。ありがとうございました」

この体験を通じて、私は「トライアングルコミュニケーションモデルはファシリテーションでも使える!」と実感しました。また、参加者のみなさんに何の違和感を持たれることなくファシリテートできたのは、大きな自信につながりました。

会場を後にしたとき、降っていた雪はやんで、青い空がうっすらと見え始めていました。

進化は、あなたとともに

コーチングやカウンセリング、思考法、ノート術、さらにファシリテーション、コンサルティングのヒアリングプロセスまで、さまざまなビジネスシーンで使えるトライアングルコミュニケーションモデルは、これまで関わってくださった方の手で広がりつつあります。

「TCM研究会」という研究グループを立ち上げてくれ、日々の実践内容をシェアしたり、使い方をアドバイスしあったりする中で、さらに磨きがかかりつつあります。

2012年7月には、おかげさまをもちまして、「トライアングルコミュニケーションモデル」が特許庁より商標登録されました。

これまで関わってくださった方に感謝の気持ちで一杯です。

このモデルが今後、どのように進化していくのは、現在の私は知る余地もありません。けれども、これまでの経緯を踏まえると、トライアングルコミュニケーションモデルの進化は、まだまだ続きそうです。

この物語の続きは、あなたと共に作っていきたいと思っています。

投稿者プロフィール

竹内義晴
竹内義晴NPO法人しごとのみらい理事長
1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。

メールマガジン

MAIL MAGAZINE

メールマガジンをお読みになりませんか?

コミュニケーションやチームづくり、自分との関わり方、これからの働き方など、「楽しくはたらく」ヒントをお送りしています。