中小企業の人材育成で取り組むべき2つの能力開発と予算の考え方

先日、中小企業のコンサルティングをしている知人から「中小企業の人材育成は大きな課題だ」という話を聞きました。「予算がなく、かつ、管理職のコミュニケーションスキルが十分でない中で、どのようにしたら職場を活性化できるか」というのが課題なのだそうです。

会社の規模に関わらず、経営者や人事の方なら、優秀な社員に育ってほしいと願っているでしょうし、その機会を提供したいと思っているでしょう。そして、社員に「この会社で働いていて本当によかった」と思って、あるいは、感じてほしいと願っているのではないでしょうか。

けれども、実際には、「それがなかなか難しい」とお感じかもしれません。大きな企業と比べて、人材育成に使える予算に限りはありますし(もしくは、予算を割けないし)、そもそも、何をどのように組み立てていけばいいのか分からないという実情もあります。

そこで、この記事では、中小企業の経営者、または、人事の方が「人材育成のために、今、取り組むべきこと」について見ていきます。

中小企業の人材育成で取り組むべき2つの能力開発

人材育成は「人を育てること」ですが、何を育てるのでしょうか。人材育成には、大きく分けると2つの「育てるポイント」があります。

仕事に関わる技能

一つ目が「仕事に関わる技能」です。仕事に関わる技能とは、社員がそれぞれの業務を遂行する上で「仕事に直接役に立つ能力」のことです。

例えば、事務職なら「パソコンの使い方」や「報告書の書き方」、コックさんなら「料理の仕方」、大工さんなら「カンナの使い方」などがそうです。

「それができなければ仕事ができない」という能力と言ってもいいでしょう。

ヒューマンスキル

二つ目が「ヒューマンスキル」です。ヒューマンスキルとは、業務を遂行する上で、「間接的に役に立つ能力」のことです。

例えば、良好な人間関係をつくるコミュニケーション能力や対人関係構築力、「なぜ(あるいは、何のために)それをするのか」のような、仕事に対する目的意識、さらには、「仕事をするうえで、これをやってはいけない(もしくは、これが大切だ)」のような、倫理観や道徳心、信念、価値観なども、ヒューマンスキルといっていいでしょう。

人材育成で育てやすい能力、育てにくい能力

「仕事に関わる技能」と「ヒューマンスキル」では、「仕事に関わる技能」のほうが育てやすいです。なぜなら、仕事に関わる技能は知識であり、トレーニングを繰り返すことによって身に付ける能力だからです。

また、「仕事に関わる技能」は、資格を取る、もしくは、実際にやってもらうことによって、その能力を測ることができます。そのため、「どんな能力が、どれぐらい習得できたか」を分かりやすい形で知ることができます。

一方、「ヒューマンスキル」は、変化が分かりにくいのが特徴です。もちろん、「〇〇とは、こうあるべきである」と言った仕事に対する目的意識や価値観を知識として体系化し、記憶させることはできるかもしれません。また、テストをしたり、アンケートをとったりすることによって、効果を測定することもできるかもしれません。

けれども、それはあくまでも知識でしかなく、社員が心の底からそう思っているのか、もしくは、行動が伴っているのかを見るのは、仕事に関わる技能と比較すると、やや、難しいのが実際のところです。

そのため、「人材教育」をする場合、能力の変化が分かりやすく、測定しやすい、「仕事に関わる技能」のほうに向きがちなのも、ある意味、仕方のないことなのかもしれません。

年代によって異なる「求められる能力」

また、年代によっても求められる能力は違います。

入社間もない、若い世代なら、「何ができるか」(つまり、仕事に関わる技能)のほうが求められることが多いでしょう。もちろん、ヒューマンスキルも大切ですが、ヒューマンスキルは経験によって身に着いていくものでもあります。

一方、業務経験を積んだ中堅世代なら、仕事に関わる技能は一通り身に着いているでしょうし、年齢的にもリーダーや管理職にもなる世代です。リーダー層が発する言葉や関わり方は、一般職の社員に与える影響力が大きい。だからこそ、人をまとめる立場上、コミュニケーション能力や人間関係構築力などのヒューマンスキルが重要になります。

中小企業の人材育成と予算の考え方

続いて、人材育成の予算について考えてみます。

中小企業からよく出てくる声に「予算がない」があります。「うちは大手と違うから、人材育成にそんなに予算を掛けられない」と。確かに、大きな企業と比較すると、人材育成に使える予算には限りがあるのかもしれません。

では、実際のところはどうなのでしょうか。

産労総合研究所が調査した2016年度(第40回)教育研修費用の実態調査によれば、2015年度における教育研修費用の実績は1,000人以上の会社で9,694万円、299人以下の会社で428万円でした。このように見ると、「やはり、大きな企業の方が、教育研修費用が大きい」と感じます。

一方、従業員一人当たりの教育研修費用を見てみると、1,000人以上の会社で40,679円、299人以下の会社で24,613円でした。ちなみに、2016年度の予算で見ると、1,000人以上の会社で48,547円、299人以下の会社で35,710円です。13,000円ほどの差はありますが、一人当たりで見てみると、「それほど差がない」ことが分かります。

また、2010年のデータになりますが、学校法人産業能率大学総合研究所でも同じようなデータを公表しています。データで読み解く人材開発の現状【連載】~第1回でも、「企業の大きいほど人材教育への投資額が高いわけではない」としています。

今回の調査結果では、正規従業員に対する全社の教育投資額の平均は5,960万円、1人あたりの平均投資金額は3.7万円でした。

規模別に見ると、3,000人以上で全社の教育投資額の平均が22,986万円、1人あたりの教育投資額は「1,000~3,000人未満」が4.92万円と最も高くなっています。

規模が大きくなるほど全社の教育投資額は拡大していく傾向がありますが、1人あたりの投資額で見ると、必ずしも規模が大きいほど高いとはいえないことがわかります。

出典;データで読み解く人材開発の現状【連載】~第1回 |学校法人産業能率大学総合研究所

予算は、年度が始まる前に計画を立てます。ですから、年度当初に予算計画を立てていなければ、今期は「予算がない」となるでしょう。一方、次年度は「予算に盛り込めばいい」ので、ずっと「予算がない」わけではありません。

つまり、人材育成の予算は、企業規模に関係なく「企業経営にとって、人材育成に対する投資をどう考えるか」がカギと言えそうです。

まとめ

中小企業の経営者、または、人事の方が「人材育成のために、今、取り組むべきこと」について見てきました。

中小企業は大企業に比べると、社員の数が多くありません。それだけに、「うちの会社で社員教育なんて……」と考える経営者や人事の方もいます。また、人材育成に使える予算にも、限りがあるのが実情でしょう。

けれども、人数が少ないからこそ、「変わり始めるのが早い」というメリットもあります。

よく、経営資源で最も大切なのは「人」だといいます。けれども、スローガンで終わっていませんか?今、社員にとって育てるべき能力は何かを改めて考え、年度予算に組み込むことからはじめてみてはいかがでしょうか。

投稿者プロフィール

竹内義晴
竹内義晴NPO法人しごとのみらい理事長
1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。

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