はじめに――制度の前に、「会話」を変えよう。

しごとのみらいの竹内義晴です。

人事のみなさま、毎日、本当にお疲れ様です。そして、誰にも言えない孤独な戦いを続けてくださって、本当にありがとうございます。

この本連載で、さまざまなお話をしていく前に、私は人事の皆さんに、あえて残酷な事実を伝えなければなりません。あなたが必死に整えた福利厚生も、多額の予算を投じた採用キャンペーンも、そして、他社に負けじと引き上げた「初任給40万円」という看板も、それだけでは、今の組織の崩壊を止めることはできません。そして、すでにあなたが感じ始めている人材不足の壁も、乗り越えることができません。

これらを解決するために、さらに新たな制度を作ろうと思う。しかし、制度を作れば作るほど、現場の心が離れていくばかりです。それでは、ますます孤独になってしまいます。

私は長年、企業研修や講演を通じて、数えきれないほどの人事担当者の方々と向き合ってきました。そこで耳にするのは、悲鳴にも似た「報われない」という悩みです。たとえば……

  • 高額な採用コストを払って新入社員を採用した。それなのに、彼らは数年で辞めていく。
  • 社員のエンゲージメントを高めるために、時短勤務やテレワーク、副業・兼業など多様な働き方を認めた。それなのに、最近彼らは「わがまま」ばかり言う。
  • 若手と管理職の関係をよくしようと1on1を導入した。それなのに、管理職から聞こえてくるのは「ただでさえ忙しいのに」「何を話せばいいんだ」といった不満ばかり。何の効果も感じない。
  • 「会社の雰囲気を良くしようとダイバーシティを推進した。それなのに、社員からは「多様性が大切なのは分かるけれど、少数派ばかりひいきするのか」と突き上げられた。

がんばればがんばるほど、経営層や現場の板挟みになり、虚無感だけが募っていく現実。本当に大変ですよね。良かれと思って一生懸命やっているのに……。

そんなあなたに、私はお伝えしたいのです。その悩みや痛みは、あなたが「人事として無能だから」起きているのではありません。

あなたが悪いのではない。ただ、組織の「OS」が限界を迎えているだけなのです。

世の中が複雑になり、社会が大きく、早いスピードで変化している中、これまでの「制度(ハコ)を作って人を当てはめる」というやり方は機能しづらくなってきました。どれだけ立派な制度を作っても、その中を流れる「対話」が死んでいれば、優秀な若手は未来に絶望し、経験豊かなベテランのやる気は失ったままです。

また、人口減少という社会問題が避けられない今、人材の確保が大きな課題です。これまでも、若手社員の採用は大変でしたが、今後はますます難しくなっていくことは容易に想像できます。一方、社内を見回すと、シニア世代は数多くいます。つまり、片や「人がいない」といいながら、片や「人があまっている」という矛盾が生じているわけです。

「このような、現代の企業に起こっている問題を、何とか解決できないものか」――そのために執筆したのが本連載です。 私が本連載で提案したいのは、たった一つ。「制度」を変える前に、社員同士の「対話」を変えること。 ただ、それだけです。

若手の早期離職も、中堅の疲弊も、シニアの無気力も、これらはすべて、客観的に見れば「対話と議論が機能していない」という一点に集約されます。つまり、「コミュニケーション」という、仕事ややる気・やりがいにもっとも影響を与えるOSがうまく機能していないのです。そのOSの上に、どんなに優れた制度というアプリケーションをインストールしても、うまく機能しません。

言い方を変えると、コミュニケーションというOSを入れ替えれば、さまざまな問題は解決へと向かい始めます。

本連載は、「新たな制度をつくるだけでは問題は解決しない」と感じているあなたに贈る「新たな解決策の提示」です。人口減少という荒波を、「一人ひとりの力を最大化する」ことによって、「脅威」から「機会」に変える。そのための具体的なメソッドを、余すことなく詰め込みました。

もう、一人で抱え込まないでください。あなたがいま、その「虚無感」を抱いているのは、その背景に「本当は、人事としてもっといろいろできるはずなのに!」と理想を抱いているからこそです。人事は「管理する場所」ではなく、時間と対話の投資によって、社員一人ひとりの強みを、会社の資産に変える「投資部門」になれる。そのお手伝いがしたくて、本連載を書きました。

さまざまな問題が山積しているみなさんの会社が、少しでもいい方向に向かいますように。そして、人事のみなさんの仕事が楽しくなりますように。祈りを込めて。

特定非営利活動法人しごとのみらい 理事長 竹内義晴

投稿者プロフィール

竹内義晴
竹内義晴NPO法人しごとのみらい理事長
1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。

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