キャリア自律の第一歩は「制度作り」?  大切なのはキャリアの不安を「話せる場」

しごとのみらいの竹内義晴です。

終身雇用制度が揺らぎ、ジョブ型雇用の導入など、労働市場やキャリアの前提が変化している中、人事の方々を中心に「キャリア自律」という言葉が注目されるようになりました。

キャリア自律とは、従業員が会社に依存せず、自らの意思で将来のキャリア(目標やスキル、働き方)を主体的に考え、計画し、行動して形成していくことで、変化の激しい時代に個人は市場価値を高め、企業は組織力と成長を強化していく考え方です。

新たな考え方が広がろうとするとき、多くの企業では「どのようにすれば、社内に導入できるのか?」を考えるでしょう。そのため、「まずは制度を整えなければ」と構えてしまうのではないでしょうか?

しかし、制度をつくっても使われないケースも多いもの。さまざまな企業の人事の方々と話していて感じるのは、立派な制度よりも、まずは社員が自身のキャリアに対する不安を安心して言葉にできる「場の提供」の必要性です。

そこで今回は、なぜ今、あらゆる世代にキャリア自律が必要なのか。そして、社員がキャリアに対する不安を安心して言葉にできる「場の設計」のあり方についてお話します。

あらゆる世代に「キャリア自律」が求められる背景

まず、あらゆる世代にキャリア自律が必要な背景からお話します。

一般的にキャリア自律といえば、役職定年を控えたミドルシニア層が対象と捉えられるケースが多いようです。なぜなら、キャリア自律に関心が集まるのは、終身雇用制度が揺らいだり、人生100年時代などと言われたりするなど、どちらかといえば「いままでより、長く働く必要がある」という点に視点が向くからです。

しかし本来、キャリア自律は世代を問わず、すべての社員が考えていくべきテーマです。その最大の理由は、かつての「典型的なキャリア形成」が難しくなってきたことにあります。

かつての典型的なキャリア形成といえば、「高校や大学を卒業して入社し、30代で管理職になり、50代で役職定年、65歳で定年」といった画一的なキャリア形成が一般的なモデルでした。

しかし、人生100年時代と言われるようになり、いままでよりも自身のキャリアを長い視点で考えなければならないいま、キャリアに対する不安は、ミドルシニアだけではなく、若い世代も抱えている課題です。

先の見えにくい現代は、年齢に関わらず、これからの歩み方を自分自身で問い直すこと――つまり、キャリア自律が不可欠。だからこそ、まずは社員が、自身のキャリアに対する不安を安心して言葉にできる「場の設計」が必要なのです。

キャリア自律支援は離職防止や人材不足対策にも

「これからの歩み方を自分自身で問い直す」ことは重要である一方で、実際に行おうとすると、それほど容易ではありません。なぜなら、これまでの一般的な働き方が中心だった社内環境では、周囲にロールモデルがいないからです。それは、社員本人にとってもそうでしょうし、人事をはじめ、社員を支援する側のみなさんにとってもそうでしょう。

また、人事やマネジャーのみなさんにとって、社員一人ひとりのキャリアに向き合うことは負担に感じることがあるかもしれません。

しかし、社員のキャリア自律を支援することは、長い目で見ると企業側にとっても大きなメリットがあるのです。大きく分けて、2つのメリットがあります。

1つ目は、若手社員の離職防止です。若手世代にとって、将来のキャリアが見えない不安は、「自分は、この会社に居続けることで、本当に成長できるだろうか?」といった心情を抱かせます。その結果、離職を考える大きな要因となります。会社がキャリア形成に寄り添う姿勢を見せることは、リテンション(引き留め)において極めて有効です。

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2つ目は、人材不足への対応です。近年、人口減少にともなう人材不足が企業にとっての大きな課題となりつつあります。今後、人材はますます貴重な資源となります。これまでは、ある一定の年齢になると、一律で役職定年や定年退職を薦めてきました。しかし、人口減少時代のこれからは、年齢に関わらず、多様な人材の強みを活かし、働くことができる環境を整えることは、企業の継続性そのものに直結します。

制度よりも「話せる場」を定常的に用意する

続いて、企業が、社員のキャリア自律を支援するときの「場の設計」についてお話します。

キャリアに対する価値観が多様化しており、個々の状況によって悩みも不満も千差万別ないま、キャリア自律の支援においては、さまざまな制度設計の前に、まずは、社員が安全な環境で話ができるような「場の設計」が重要です。

こうした役割は、マネジャーが担うのが一般的かもしれません。しかし、マネジャーの場合、評価者でもあることから、上司には本音を話しにくい場合もあります。また、傾聴をはじめとした一定のトレーニングを積んでいないと、どうしても自身の経験値や成功体験に基づいたアドバイスになりがちです。

そこで、客観的な視点を持ち、当事者のキャリアをフラットに捉えられる第三者の関わりが必要となります。

「場の設計」における4つの重要な要素

キャリア自律における効果的な「場」を作るためには、いくつかの配慮すべきポイントがあります。

1. 「キャリア相談の場」であると明確に定義する

キャリアへの漠然とした不安は、きっかけがないとなかなか形になりません。「ここはキャリアについて相談する場です」と明確に定義された場を設けることが、内省を促す第一歩になります。

2. 相談者の属性(年齢・経験)に配慮する

相談相手とのマッチングには、年齢や経験値が大きく影響します。

  • 20代であれば、少し先の未来を想像できる30代前半の先輩
  • 子育てと仕事の両立に悩む女性であれば、実際にその経験を持つ人
  • マネジャー経験者であれば、同じくマネジメントの苦労を理解できる人
  • ベテラン世代であれば、これからのキャリアについて多様な経験がある人

すべての属性を揃えるのは難しいかもしれませんが、相談者が「この人なら自分の気持ちを分かってくれる」と思えるような属性への考慮は、安心感を生むために不可欠です。

3. 「聞く」から始めるステップ

いきなり「相談してください」と言われても戸惑う社員は多いものです。まずは、ロールモデルとなるような社員が自身の経験を話す場を作り、それを「聞く」ことから始めるのも有効です。

社内に、キャリアコンサルタントの資格を持っている人がいれば、協力してもらうのもひとつの方法でしょう。

4. チームでの支援

社員1人に対して担当を1人つけるよりも、異なる属性や経験を持つ「キャリア支援チーム」として関わっていく方が、より多角的な視点を提供できます。

「話すこと」が生み出す安心感という価値

先日ある企業で、キャリア自律に関するワークショップを開催しました。若手から管理職まで、さまざまな年齢や立場の方が、キャリアに対して、普段感じている本音を話し合う場です。

そこで多く聞かれたのは、「年代は違っても、みんな考えていることは同じだと知れてよかった」という声でした。

明確な答えがすぐに見つからなくても、ちょっと先の先輩と対話し、今の自分の悩みを聞いてもらうだけで「そんなに心配しなくていいんだ」という安心感が生まれます。その安心感こそが、自らキャリアを切り拓こうとする活力(自律心)の源泉になります。

大掛かりな制度設計に頭を悩ませる前に、まずは「先輩の話を聞ける会」のような、ライトな形の場作りから始めてみてはいかがでしょうか。専門的なスキルを持ったファシリテーターが1人いれば、それは十分に実現可能な一歩です。

投稿者プロフィール

竹内義晴
竹内義晴NPO法人しごとのみらい理事長
1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。

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