企業にとって本当に有効なキャリア自律とは?〜若い世代の離職を防ぐために

しごとのみらいの竹内義晴です。
昨今、多くの中小企業の人事担当者の方や経営者の方が関心を寄せているテーマの1つに「キャリア自律」があります。キャリア自律とは、社会や組織の変化が激しい現代において、個人が自らの意思と責任でキャリアの方向性を決め、主体的に学び、スキルを磨きながら、自分らしいキャリアを継続的に切り拓いていく姿勢や能力のことです。
リスキリングをはじめ、キャリア自律は「ミドルシニア世代向け」というイメージがあります。実は、キャリア自律の取り組みは、若手社員の離職防止にも有効です。
そこで、企業として「どのように取り組めばいいのか」について、現場の課題感に寄り添った視点で具体的な提案をしていきます。
「キャリア自律」はもはやミドルシニア世代だけのテーマではない
先日、越境学習に関する講演の機会いただきました。越境学習とは、自分が所属する「会社」という枠組みを超えて、社外の勉強会やプロボノ、副業といった活動の中で、会社の中だけでは得られない経験をすることです。
社外の活動やコミュニティに身を置くことで、自社では当たり前とされていた常識を客観的に見直したり、他社のやり方を知ったりできます。こうした経験を通じて、社員は自分の今までの仕事を振り返り、今後のキャリアに「どう結びつけていくか」を考える機会になります。
越境学習は、キャリア自律と密接な関係があります。
近年、「人生100年時代」を見据えたリスキリングや、それに伴う「キャリア自律」の重要性が叫ばれ、主にミドルシニア以降の世代に向けた施策として語られることが多くなりました。
しかし、私が企業研修や講演の現場で感じるのは、世代に関わらず、キャリア自律への支援が求められているという現実です。特に、若手社員の間で、自身のキャリアに対する漠然とした、あるいは具体的な不安を抱えている人が増えています。
若手社員が抱える「キャリア不安」が離職の原因に
リクルートワークス研究所の古屋星斗氏の書籍『なぜ、「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか?〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学』によれば、若手社員が抱えるキャリア不安には、主に以下の3つの視座があります。
- 時間視座: 「この会社にいても成長できないのではないか」
- 市場視座: 「自分は別の会社や部署では通用しなくなるのではないか」
- 比較視座: 「学生時代の友人知人と比べて差をつけられているのではないか」
こうした不安を抱えたまま日々仕事に取り組んでいると、「この会社で働き続けて本当に大丈夫だろうか?」という不安が膨らみ、結果として離職へとつながってしまいます。
一方で、キャリア自律の支援を人材育成の中に取り入れることは、ミドルシニア以降の社員の自律を促すためだけでなく、若い世代が、青年期から自律的なキャリアを考えることにつながります。その結果、キャリア不安とうまく付き合えるようになります。
つまり、企業がキャリア自律を支援することは、単にミドルシニア世代の再活性化を促すだけでなく、若い世代の離職を防ぎ、エンゲージメントを高めるための、極めて有効な打ち手となるのです。
キャリア自律=人材の流出ではない
ここで、経営者の方や人事担当者の方が抱える大きな懸念にも触れておきましょう。
それは、キャリア自律を支援することで、転職や独立など、社員が「離職してしまうのではないか?」という懸念です。人口減少社会において、社員の流出は大きな懸念です。不安を抱かれるのも当然です。
しかし、キャリア自律を支援することは、社員にとって、「この会社にいることで、自分のキャリアは大丈夫だ」と思えるようになり、不安があっても、それを解消しながら仕事ができるようになります。自身のキャリアに不安がなくなる。この環境こそが大切なのです。
本当に怖いのは、社員が不安を抱えたまま、誰にも相談できず、ある日突然、「ここにいても、成長できない」という理由で離職してしまうことではないでしょうか。
最初の一歩は「制度づくり」ではない
では、そうしたキャリア支援をどのように進めていけばいいのでしょう。
近年では、現代版伊藤レポートに示されているように、人材をコストではなく資本とらえ、あるべき人材像を明確にしたり、自律的な学習ができるように評価や報酬の制度を見直す「人的資本経営」の重要性が叫ばれています。
ですが、現実問題として、大掛かりな制度改定や、評価・報酬制度の見直しは「理想はわかるが、現実には難しい」と感じている方は少なくないでしょう。
「この会社で、安心してキャリアを積んでいける」と思える支援の実現へ
企業にとって本当に有効なキャリア自律支援は、「この会社で、安心してキャリアを積んでいける」と社員が心から思えるようにするための支援です。
これは、「制度をつくること」よりも……
- 若手社員に対して:未来のキャリア形成にどんな不安を感じているのか?
- ミドルシニア世代に対して:人生100年時代で、どんな働き方を考えているのか?
のように、社員のキャリアに対する不安に耳を傾け、自社で経験できる成長の道筋や、会社が期待する役割について、ていねいにコミュニケーションを取ることから始まります。不安や課題感を共有できる場を設けることが重要です。
不安を共有し、共に考える「場」がキャリア自律を促す
キャリアに対する不安の解決においては、「こうすればうまくいく」という正解があるわけではありません。しかし、自分の課題感に寄り添い、耳を傾けてくれる人がいる、あるいは社員同士がお互いに不安を共有し、一緒に考える機会があるだけで不安は軽減されるのではないでしょうか。
たとえば、若手社員にとっては、そうした対話ができる上司が身近にいることや、ミドルシニア以降の社員にとっては、自分と同じような不安を抱えている仲間と社内で一緒に考える場があること。
こうした「場」があること自体が、社員一人ひとりがキャリアを主体的に考え始めるきっかけとなり、キャリア自律の第一歩につながります。また、チームビルディングにも効果があるでしょう。
その場で得られた社員の生の声に基づいて、「今、この会社に本当に必要な施策は何か」を判断し、小さくても効果的な打ち手から実行していく。そうした地道な取り組みこそが、社員に「会社は自分のキャリアに真剣に向き合ってくれている」という安心感を与え、結果として定着率の向上につながるのです。
キャリア自律支援は、決して難しく、大掛かりな制度である必要はありません。まずは、自社の社員の「声」を聴くことから始めてみませんか?
本当に企業にとって有効なキャリア支援を考えるのであれば、最初にすべきことは、上段に構えて大掛かりな制度をつくることではないのではないかと、私は考えています。
投稿者プロフィール

- NPO法人しごとのみらい理事長
- 1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。






