36歳になって思う「プログラマ35歳定年説」

注)この記事は、2007年にCNET Japan ブログネットワーク(現:CNET Japanブログ)へ投稿し、CNET Japan ブログアワード 2007を受賞した記事です。2010年5月、CNET Japan ブログネットワークが終了したことからこちらに転載いたします。

あるサイトで連載の話を進めていて、そのコンテンツを考えていた。目次を書き出しているときにふと「プログラマ35歳定年説」なるものを思い出した。

プログラマ35歳定年説とは、「プログラマは年齢を重ねて行って、35歳ぐらいになったらSEなりマネジメントなり、次に行かないとオマンマ食べられないよ」というものだ。

「そういえば、自分もそう言われてきたっけ・・・。若いころは「俺たちがシステム作ってんだ!実力があれば絶対に大丈夫。ふざけんな!」と思っていたよなぁ。」

ふと考えれば私は今36歳。その説によれば定年を迎えている年齢だ(笑)。年金はもらえないが・・・。

プログラマ、SE、マネジメント、経営の一通りを経験してきて、その説の私なりの考えを書いてみたくなった。

35歳プログラマ定年説は本当か?・・・私にとって

かつては技術力に自信があったし、楽しいプログラマ人生を送ってきた。そんな私だが、今もし誰かに「今プログラムを思いっきり書きたいか?今後もプログラマとして生きていくか?」と言われたら、

No

とはっきりと答える。率直な感想だ。

私に限って言えば・・・35歳定年説は本当だった。というより、プログラムを動かすことより、人を動かすことに魅力を感じてしまったのだから、ずっとプログラマだったらどう思うかというのは残念だがわからない。

いかにプログラムを美しく書くか?いかにオブジェクティブに書くか?以前はあんなにプログラミングが好きだったのに・・・。今ではプログラムを作ってくれと言われても「面倒だなぁ」という気持ちが先にくる。(実際には、作り始めれば「あぁ、コレコレ。コレだよなぁ、プログラミングの面白さって」という感じになるのだが・・・)なんでそうなったのかなんてわからない。「他のことのほうが楽しくなったから」が理由だと思う。

以前、親しくしていた技術者仲間にこんなことを言われたことがある。「竹内さんは変わってしまった。以前の竹内さんが良かった」そのときはショックだった。技術者魂をどこかに置いてきたつもりは無かった。今は最高の褒め言葉にも思える。それだけ、成長したということなのかもしれない。

35歳プログラマ定年説は本当か?・・・私の周囲(否定説)

以前お付き合いさせていただいた優秀なプログラマがいた。その方は60歳前後だったと思うが、技術の向上心を常に持ち、プログラムを書いているときや新しい言語の話をしているときは本当に楽しそうに仕事をしていた。

また、私の50歳前の知人は現在、社員数名を抱えているソフトハウスの経営者。プログラマから会社を興したが「早くマネジメントは誰かに任せて、プログラムを思いっきり書きたい」とおっしゃっている。

そういう意味では、35歳定年説はウソとも言える。

35歳プログラマ定年説は本当か?・・・私の周囲(肯定説)

その反面、違う人々も多く見てきた。前出と違う40歳以降のプログラマと言えば、管理職はやりたくない または、任せられないからプログラマをしている人がほとんどだった。

それ以上を望んでいるわけでもなく、「会社に居られればいい」という感じだった人もいたし、技術力をさらに磨いている人もいた。いずれも共通しているのは「管理職はやりたくない」ということ。それはそれで、悪いことではないとは思うが、イキイキ働いていたかといえば、少し疑問が残る。

間違えないで欲しい。あくまでも私の周囲の話だ。

35歳プログラマ定年説は本当か?・・・私の見解

私がもし、プロジェクトを任され、40歳以降のプログラマを見たら、正直「いろんな選択肢がある中で、なぜプログラマをやっているですか?」と聞くだろう。

「プログラムが大好きなんですよ」

と笑顔で答えてくれたら、きっと喜んでお任せすると思う。けれども、それ以外の答えだったら、たぶん任せない。

結局は、自分がどこまで求め続けることができるかということなのかもしれない。前出の楽しそうに仕事をしている人たちは本当に楽しそうで、好奇心旺盛だ。それに比べて、肯定説の側の方々は好奇心というよりも、「今私にできるのはこれです。これには自信があります。だから使ってください。」という感じだった。

私の周囲では、この年代で面白いように二極化していた。

35歳プログラマ定年説は本当か?・・・一般解

一般的には、35歳ぐらいで人月ベースの単価が人件費と合わなくなってくるようだ。また、SEが若手なら年齢が上のプログラマは一緒に仕事がしにくいし、客先の需要も少なくなってくるのかもしれない。

だから35歳ぐらいで会社はプログラマの次を勧めるだろうし、求めるのだろう。

35歳プログラマ定年説は本当か?・・・プログラマに限らない

本当に大好きなら、その道を切り開いていく・・・プログラマという職業はきっとそういう厳しさと現実は他の職業よりあるのかもしれない。自分で仕事をとってきて、「技術者は楽しい」とイキイキと仕事をしている方は知人でも実際にいる。そういう方は応援したくなるしもちろん定年なんかない。

けれども、実際には年齢を重ねると確かにバリバリ作りこめる人は少なくなる事実はある。

能力的な衰えを言う人もいるが、それは安易すぎるだろう。もしそうなら、35歳以上の技術的な専門家がいなくなってしまうし、大学教授や医師、他にもたくさんの技術者が35歳を超えても大活躍している。

「自分」は、他人との関係性で決まる。需要と供給という言い方もできるかもしれない。年齢を超えた「何か」をいつまで供給できるか?そのためには何が必要か?それを考え、腹をくくった人には、35歳を超えての輝かしいプログラマ人生が待っているのではないか?

私の父親は機械の技術者だ。以前は整備工場のサラリーマンで管理職をいやいやしていたが、自分で商売を始めてからというもの、毎日機械に戯れイキイキと仕事をしている。近くに大手の会社もあるが、「細かい仕事をしてくれて、人柄もいい」と評判だ。もちろん独立する前には経理の勉強もしていたし、最初をいかに食いつなぐかということも考えていたようだ。本当に自分が技術者として仕事をし続けたいなら、「経営」「営業」「若手とのコミュニケーション」なども勉強して、自分を磨く努力をしていけば、35歳という年齢は関係ない。

35歳でプログラマは定年か?・・・35歳以上になったときの自分をイメージして、どうありたいのか?そこに視点を合わせて、自分で決めればいい。35歳でプログラマであり続けるためには何が必要なのか?「技術だけではない」ことだけは明らかだ。

少なくとも、「私は管理職が嫌なんです。技術がしたいんです」と、「技術を何かを断る道具」にしている間は、何も解決には向かわないであろう。そういう私も、かつては自分自身が「技術」を使って他を嫌がっていた張本人。過去に「もし」はないが、もしも過去に戻ることができたら、今の自分から昔の自分に言ってあげたい。

「技術をしたいってことを都合のいい理由にしてウダウダ言い訳してんじゃねぇよ。周りを自分に合わせようっていったってそうはいかねぇんだよ。本当にやりたいんだったら、会社や世間に文句言ってねぇで、やり遂げる覚悟を決めて自分ができることからとっとと勉強始めろよ。」

って。それを聞いた昔の自分はどう思うだろう?肩を落とすか、ブチ切れるか・・・?でもそれが、昔の自分への誠意だ。

業界の構造、下請け体質、外注の評価・・・確かに問題はあるかもしれないが、それと戦っていても時間の無駄だ。業界を自分の理想に傾けることにエネルギーを使うなら、いかに早く自分の理想に近づけるかにエネルギーを使ったほうが効率がいい。(つらいけど・・・)

「あなたは肯定派ですか?否定派ですか?」といわれれば。どちらでもないと答える。そして、それを聞いた人にこう聞くだろう。

「あなたはどうしたいの?」

世間に流されず自分自身と相談しながら、自分の行きたい方向をしっかりと見て、自分で決めて進んで欲しいと思う。途中で方向が違うなと思ったら、修正すればいいじゃないか。

最後に・・・作り出すことって、楽しいよね。いろんな苦労はあるかもしれないけれど、その道を選ぶなら、覚悟を決めて頑張ってみよう。

投稿者プロフィール

竹内義晴
竹内義晴NPO法人しごとのみらい理事長
1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。

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