企業の成長エンジン再構築:ミドルシニアが活躍する組織戦略

しごとのみらいの竹内義晴です。

少子高齢化に伴い、労働力人口の減少が社会課題となっています。その結果、より一層優秀な人材の採用が困難になりつつあります。

このような状況下で、企業が今後も成長していくためには「今いる人材をどう活用するか」が鍵になります。なかでも、ボリュームゾーンとなる40代から60代のミドルシニア人材は、企業に大きな影響を与える年代です。

そこで、ミドルシニアの成長を、企業がどう支援していくかについてみていきます。

ミドルシニア活用を阻む3つの「壁」

企業におけるミドルシニアの支援について、これまで、その意識は希薄であったと言えます。特に50代は、役職定年や定年退職が視野に入る年代であり、企業側は固定費削減の観点から役職を外すことはあっても、彼らに新たなキャリア教育を行うことは一般的ではありませんでした。

その理由は、いくつかあります。

スキル習得の困難性と機会の欠如

まず、教育・リスキリングの困難性が挙げられます。若い世代の場合、社内で仕事をしていくための「スキルを身に着けること」自体がキャリア教育になります。一方、ミドルシニアの場合、リーダー研修のようなマネジメント能力を身に着ける支援はあっても、本人の能力に対する支援はほとんどありませんでした。

ミドルシニアが新たな能力を身に着けて、今後も成長しつづけるために、近年では、リスキリングが注目されています。しかし、資格取得の支援などにより新たな知識を得る機会にはなっていても、実際の業務に活かす機会がなく、単に「資格を取っただけ」となってしまうケースも少なくありません。また、近年ではAIやDXなど、高度なデジタル技術の習得が推奨されていますが、高度な技術は学ぶハードルが高く、個人や企業の成長にはつながっていないのが実情です。

過去の成功体験という名の「固執」

長年培ってきた技術やスキルを持つスペシャリスト層は、過去の成功体験が強みとなる反面、新たな技術や発想を取り入れる壁となることもあります。単に「スキルを身に着ける」「資格を取る」といった支援だけでは、彼らは新たな価値やイノベーションを生み出すような人材にはなり得ません。

コミュニケーションの再構築の課題

コミュニケーションの問題も深刻です。役職定年などで役割が変わる際、新たな関係性・役割におけるコミュニケーションの構築が課題となることがあります。本人も周囲も戸惑いが生じやすいこの状況は、多様な世代が生産性高く業務を行う妨げとなっています。

ミドルシニアを企業の成長エンジンに変える「層別戦略」

ミドルシニアが才能を最大限発揮し、企業の成長につなげるためには、新たな取り組みが必要です。ミドルシニア層は、大きく分けると「マネジメント層」と「スペシャリスト層」の人材が存在しているため、この2つに分けて戦略を検討する必要があります。

マネジメント層:無形資産の「継承」と「転換」

マネジメント層の強みは、新たなスキルの習得よりも、これまでに築いた信頼関係や交渉力といった無形の資産にあります。彼らは役職を外れても、社内調整や関係部署との交渉といった、円滑な業務遂行に必要な役割を担うことができます。

ただし、部下のサポートやマネジメントに重きを置いてきた人ほど、現場から離れてしまい、「自分の強みは何か」を見失いがちです。そのため、企業は彼らに対し、あらためて強みの棚卸しと言語化の支援が必要となります。

また、傾聴力、成長支援能力、交渉力といった強みを活かし、社内メンターや、業界の知見を活かしたコンサルタント的な役割、顧客との折衝といった信頼関係と交渉力を生かした業務を担うことも有効な転換例です。

スペシャリスト層:経験知を活かした「現場改革力」へ

長年培ってきた技術やスキルを持つスペシャリスト層は、今まで培ってきた知識や経験をさらにブラッシュアップしたり、デジタル技術を身につけて他の分野や職場で活かすことを検討したりするなど、自身が活躍する場を広げるアプローチが有効です。

例えば、ミドルシニアは業務スキルや経験が豊富です。近年では、プログラミングのような高度な知識がなくても、業務改善ができるノーコードツールがあります。企業の生産性向上や業務改善において、豊富な業務経験を活かしつつ、現場の課題解決に携わることは、最強の組み合わせとなります。

また、業務改革への意欲を高め、「現場で、自分たちで変えていける」環境を提供していけば、若い世代にもよい影響を与えるでしょう。

企業が求める「期待の可視化」とキャリアマッチング

企業からの期待の明確な提示

ミドルシニアの生産性を高めて、企業の成長につなげるためには、企業側が「どのような人材を求め、どのような役割を果たして欲しいのか」を社員に明確に提示することが不可欠です。

これが明確であれば、そのスキルや経験があり活躍したいと思う社員とのマッチングが容易になります。また、まだスキルがないミドルシニアであっても、「会社で働きたい、貢献したい」という気持ちがあれば、そうしたスキルを身につけようという強い動機づけにつながるでしょう。

具体的には、「こういうポスト、こういう仕事ができる人材に会社は残ってほしい。応募者はいますか?」と提示するなど、既存のポストだけでなく、人材不足で手が回っていないポジションも明確にして募集することが有効です。世代を問わず、能力がある人が役割を担えるようにすることで、企業側のミドルシニア活用に対する負担感やリスクを軽減できます。

成功するキャリアマッチングの鍵

企業が提示した内容と、社員自身の強みが適合しているかを認識するためには、社員自身による強みや経験、スキルの言語化・可視化が必須となります。言語化することで、社内だけでなく、副業・兼業やNPOなど社会貢献性の高い取り組みなど社外との接点になる可能性も生まれます。

また、会社として必要なポジションや求める人材像を提示することは、単なる人材確保に留まらず、「会社がどういう人材に価値を置いているか」という企業のカルチャーを社員に伝え、若手にとっても将来のキャリア目標を示すことになります。

ミドルシニアの意欲と企業の期待を繋ぎ、双方の成長を実現する。これこそが、企業が持続的な成長を遂げるための、最も確実な投資となるでしょう。

投稿者プロフィール

竹内義晴
竹内義晴NPO法人しごとのみらい理事長
1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。

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