世代間ギャップを縮めるコミュニケーションとは?
もし、あなたが、職場の部下と「最高にいい関係」を築けるとしたら、どんな関係が理想でしょうか。
「言ったことを素直に受け取ってくれる」「笑顔で気持ちよく仕事を引き受けてくれる」……こんな関係だったら、仕事がとてもやりやすいでしょう。
相手が上司でもそうです。「いつもニコニコしていて話しやすい」「やったことをきちんと認めてくれる」……こんな関係だったら、仕事に行くのも楽しくなるかもしれません。
けれども、実際はどうでしょうか。
「最高にいい関係?どんなに想像したって、あのヘンクツ野郎とは分かり合えないよ」……そんな考えが頭をよぎってしまうかもしれません。そして、つい、「最近の若い世代は……」「老害は早くいなくなってくれたらいいのに……」――普通の人だったきっと多かれ少なかれ、異なる世代の考え方や行動に不満を感じることがあるのではないでしょうか。
この記事では、「世代間ギャップが起こる理由」と、「考え方が異なる相手と分かり合う方法」「対立を乗り越えて世代間ギャップを縮めるためには?」「世代間ギャップを縮めるコミュニケーションのポイント」について見ていきます。
世代の特徴や背景が分かると、「あぁ、だからあの人はそういうふるまいをするのか」ということが分かり、どうすればいいのかが分かります。
世代間ギャップの実際
ところで、世代間ギャップの実際は、どのようなところに表れているのでしょうか。
公益財団法人日本生産性本部が2013年に調査した、日本の課長と一般社員~第2回「職場のコミュニケーションに関する意識調査」結果~によれば、業務上のコミュニケーションについて、「課長・一般社員とも業務上のコミュニケーションは取れていると感じている」のだそうです。一方、コミュニケーションの方法については、「部下の能力発揮と上司のサポートにチグハグ感がある」としています。
たとえば、業務上のコミュニケーションについて、課長の82%、一般社員の73.1%が「業務上のコミュニケーションは取れている」と感じているのに対し、コミュニケーションの方法については、叱ることが「育成につながると思う」課長は89.0%いる一方、叱られると「やる気をうしなう」一般社員は56.3%にのぼったそうです。
世代間ギャップが起こる理由
ではなぜ、このような「世代間ギャップ」が生じてしまうのでしょうか。その理由は簡単です。それぞれの世代で、「育ってきた背景が違うから」です。「”当たり前”が違う」と言ってもいいかもしれません。
たとえば、ベテラン世代が社会人になったとき、先輩から叱咤激励され厳しく育てられてきました。一方、若手世代は「褒めることが大事」と言われ、個人が尊重されてきました。
ベテラン世代から若手世代を見ると、なんとなく頼りなく感じます。一方、若手世代からベテラン世代を見ると、なんとなく威圧的に見えるのは、そのためです。
また、連絡手段もそうです。ベテラン世代が社会人になったとき、連絡手段は電話やFAXを使うのが一般的でした。一方、若手世代は学生時代から日常的にメールで連絡していますし、社会人になっても一人一台パソコンを与えられているのが特別なことではありませんでした。近年はスマートフォンを持ち歩き、ソーシャルメディアで連絡を取り合っています。
「緊急時は電話連絡が当たり前」と思っているベテラン世代が、「緊急時は24時間連絡できるメールやソーシャルメディアが便利」と思っている若手世代からメールやソーシャルメディアで緊急連絡を受けると、なんとなく違和感を抱きます。逆に、メールやソーシャルメディアが便利だと思っている若手世代が、頻繁に電話で連絡を受けると、「メールでもいいじゃん」と違和感を抱くかもしれません。
どれがよくて、どれが悪いというわけではありません。しかし、自分が育ってきた背景からすると、相手の考え方が異なって見える。それぞれの世代の「当たり前」が違う。だから、世代間ギャップが生じてしまうのです。
考え方が異なる相手と分かり合うためには?
しかし、近年はパワハラや、過度なストレスによるメンタルヘルスが社会問題になっています。関わり方を誤って、「自分たちの時代は○○だったから……」と自分のやり方を通しすぎてしまうと、「世代間ギャップ」以上の問題に発展してしまう恐れもあります。
では、どうすればいいのでしょうか。
考え方が異なる相手と分かり合う最初のステップは、「相手の特徴を知る」ことです。
たとえば、マイナビウーマンの記事【保存版】「○○世代」「新入社員タイプ名」いろいろまとめてみましたでは、各世代の特徴を次のようにまとめています。その一部を要約しながら引用すると……
- 「しらけ世代」(1950年代から1960年代前半に生まれた人)
- クールで個人主義な傾向が強い。
- 政治にはあまり興味がない。
- 「無気力」「無関心」「無責任」といわれた。
- 「バブル世代」(1965年-1969年生まれの人)
- 消費に積極的である。
- コミュニケーション能力が高い。
- 見えっ張りな反面、自分の評価にこだわりがち。
- 「男らしさ」「女らしさ」を意識している。
- 「氷河期世代」(1970年-1982年生まれの人)
- 貯金をする。
- 浪費に消極的。
- 結婚、出産をあまり気にしない。
- 「ゆとり世代」(1987年4月2日-2004年4月1日生まれの人)
- 失敗を恐れがちである。
- 叱られることに慣れていないためか「打たれ弱い」。
- 非常に現実的な「リアリスト」である。
- ルールを順守する意識が高い。
出典:【保存版】「○○世代」「新入社員タイプ名」いろいろまとめてみました(マイナビウーマン)
このように、各世代によって価値観や捉え方はかなり違うことが分かります。
たとえば、「バブル世代」と「ゆとり世代」を比べてみましょう。それぞれの世代が、「なぜ、あの人はそう考えるのか」を知るきっかけになります。
世代の「部分」ではなく「関係性」を読む
また、各世代の「部分」だけではなく「関係性」を読むのもいい方法です。なぜなら、人が生まれてから最も影響を受けるのは「親の世代」で、学校や会社などで影響を受けるのは「前の世代」だからです。
そこで、各世代と親世代(ざっくり30年前)、1つ前の世代を比べてみましょう。
バブル世代
「バブル世代」の親は「昭和一桁世代」や「焼け跡世代」です。戦後の何もない時代から、物をそろえることによって豊かになっていく世代です。そういう意味では、バブル世代が消費に積極的なのもうなづけます。
1つ前の世代は「しらけ世代」です。その特徴を見比べてみると、ギャップを感じていた世代なのかもしれません。
氷河期世代
「氷河期世代」の親は「団塊世代」です。消費に積極的な親に対し、バブルが崩壊し、就職氷河期に入った氷河期世代は、消費に消極的という特徴があります。
1つ前の世代は「バブル世代」です。親も、1つ前の世代も消費に積極的なのに対し、氷河期世代は消費には積極的になれない世代でした。そのほかの価値観的にも、さまざまなギャップを感じていた世代なのかもしれません。
ゆとり世代
「ゆとり世代」の親は「しらけ世代」です。しらけ世代とゆとり世代を比較すると、その特徴になんとなく関係性があるように感じられます。
1つ前の世代は「氷河期世代」です。消費スタイルなどは氷河期世代とも似ているように感じられます。そういう意味では、他の世代と比べて、親と前の世代とのギャップが少なかった世代なのかもしれません。若い世代が親と仲がいいと聞きますが、その理由がなんとなく理解できます。
このように、各世代とその親、一つ前の世代を重ねてみると、「なぜ、あの人はそうかんがえるのか」が見えてきませんか。
世代間ギャップを乗り越えるためには?
とはいえ、「違いを尊重しよう」「お互いを分かり合おう」というのは、なかなか難しいことなのかもしれません。
そこで、世代間ギャップを縮めるためには、「なぜ、あの人はそう考えるのか?」を考えてみることをオススメします。つまり、相手がそう考えるようになった背景や、信念体系を考えてみるのです。
あわせて、「なぜ、自分はこれが正しいと思うのか」のように、自分がそう考えるようになった背景も考えてみるといいでしょう。
背景や信念体系を考えることによって、「あの人は、ああいう経験をしているから、こういう風に考えるのだな」「自分は、こういうことを正しいと思っているけれども、それは、○○という経験があったからだな」のように、客観的な立ち位置で考えることができるようになり、こころのゆとりが生まれます。
対立を乗り越えて世代間ギャップを縮めるためには?
世代間ギャップを縮めるためには、どのように関わっていけばいいのでしょうか。
それぞれの世代には、それぞれの当たり前、それぞれの正しさがあります。これは、どちらがいい/悪いというものではないので、お互いの意見をぶつけあっても分かりあえません。なぜなら、(当たり前ですが)それぞれの立場では、それぞれの意見が正しいからです。ここで、「あなたの意見は違う」と言われてしまったら、存在が否定されたような印象を抱かせてしまい、ますますギャップが広がってしまいます。
そこで、お互いにとっての「本来の目的」「共通の目的」を探してみます。このときの問いは、「そもそも、本来の目的は何だろう?」「この状況の中で、最も大切なことは何だろう?」です。
たとえば、先ほどの、上司と部下のコミュニケーションなら、「叱ることが大事」「叱られるとやる気を失う」のように、お互いの正しさをぶつけ合っても分かり合うことはできません。そこで、「この状況の中で、最も大切なことは何だろう?」「対立しあっているそもそもの目的は何だろう?」と考えてみます。
子供を育てるときに、叱ってばかりでは、褒めてばかりではだめなように、「人を育てる」「成長する」という本来の目的に気付くと、その手段は「状況によって変わっていい」ということが分かります。
また、連絡手段についてもそうです。「電話でなければだめ」「メールやソーシャルメディアでもいい」をぶつけ合っても答えは出ませんが、「そもそも、本来の目的は何だろう?」「この状況の中で、最も大切なことは何だろう?」と考えてみると、「大切なことを共有する」という、共通した目的があることが分かります。状況に照らし合わせると、電話のほうがいいかもしれないし、メールやソーシャルメディアのほうがいい場合もあるでしょう。
人は、すぐに目的と手段を入れ替えてしまいがちです。しかし、「本来の目的」「共通の目的」を探すと、「どっちがいいか」「どっちが正しいか」で意見をぶつけ合うのではなく、目的と状況に照らし合わせて、「よりよくするためにはどうすればいいか」の判断がつくようになります。
「本来の目的」「共通の目的」を考える能力を、抽象的思考能力と言います。
世代間ギャップを縮めるためのコミュニケーションのポイント
最後に、世代間ギャップを縮めるコミュニケーションのポイントです。
各世代によって、さまざまな考え方や価値観があります。それをぶつけ合ってもなかなか分かり合えません。
そこで、異なる世代とよりよいコミュニケーションを行う際には、「相手のペースに合わせつつ、自分が伝えたいことを伝える」ようにします。
ペースを会わせる
どんなにすばらしい知恵でも、相手に受け取ってもらえなければ意味がありません。そこで、まずは、相手のペースに合わせます。「相手の懐に入る」と言ってもいいかもしれません。
以前、寄稿した「最近の若い人は……」と思ったら――世代間ギャップを埋める方法(誠Biz.ID)では、次のような例を紹介しました。
相手に通じるところから始める
コミュニケーションギャップを埋める具体的な方法論としては、「合わせる」があります。
「合わせる」と言っても、相手に従うということではありません。中国の古典では「まず、その人間に通ずるようなところから始めよ」という言葉があるそうですが、最初から相手に拒否されてしまって、コミュニケーションが成り立たないのでは意味がないので、まず相手の状況や価値観に合わせて話を始め、それから自分の考えにリードしていくのです。これは職場でも同じことが言えます。
例えば、部下がスケジュール通りに仕事をしてくれないとき「おい、納期はいつだと思っているんだ! オレが若いとき、納期が遅れたら先輩からこっぴどくしかられたものだぞ。これだから最近の若いヤツはダメなんだよ」のように伝えたら、やる気を失ってしまうか、聞く耳を閉ざされてしまう可能性大です。
そこで、部下に「合わせる」を意識してみます。部下がどういう状況にあるかを考え、合わせてから、自分の意見を言うようにするのです。「こう忙しいと、納期を守るのもなかなか厳しいよね。けれども、これを乗り越えたらすごく成長できると思うよ。納期までに終わらせるようにがんばってみて」などのようにです。
逆に若い世代のほうが上司に、納期に遅れそうな仕事について伝えるとき「こんな無茶な納期、最初からできるわけないじゃないですか。○○さんはいつも仕事を押し付けるだけなんですから……」のように伝えたら、やはり反感をかってしまう可能性大です。
ここでも、上司に「合わせる」を意識してみます。上司がどういう状況にあるかを考え、合わせてから自分の意見を言うようにするのです。「スケジュール全体を管理するのは、きっと大変な仕事だと思います。いつもありがとうございます。実は納期について相談があるのですが、○○の納期が○○のために遅れそうなんです。そこで……」などのようにです。
伝える
自分の考えを伝えます。最初にペースを合わせることで、心と心を通わせることができるため、こちらの考えを受け取ってもらいやすくなります。
伝え方の詳しい内容については、伝えるカテゴリーの記事もあわせてご覧ください。
まとめ
世代間ギャップが起こる理由と、考え方が異なる相手と分かり合う方法、対立を乗り越えて世代間ギャップを縮める方法についてお話ししました。
人は普段、自分の考え方を主体に考えるので、自分の意見が「正しい」と考え、他の世代の意見は「正しくない」と感じてしまいます(当たり前ですよね)。
けれども、それぞれの世代には、それぞれの時代で「そう生きざるを得なかった」背景があります。
だからといって、「違いを尊重しよう」「相手のことを理解しよう」というのは、難しいことです。
それでも、「なぜ、あの人はそう考えるのか」を考え、「なぜ、自分はこれが正しいと考えているのか」を考えると、意見をぶつけ合うよりもこころの余裕が生まれます。また、お互いの「本来の目的」「共通の目的」を見つけると、意見や価値観の対立を乗り越え、それを踏まえたうえで「未来をよりよくするためにはどうすればいいか」を考えるきっかけになります。
- 相手や自分が「そう考える背景」に思いをはせること
- 対立している「本来の目的」「共通の目的」を考えること
これが、世代間ギャップを縮め、よりよい職場を作っていくポイントです。
投稿者プロフィール
- 1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。
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