ダイバーシティとは?インクルージョンとは?

FREEIMAGES

近年、ビジネスシーンでは「ダイバーシティ」という言葉を見聞きするようになりました。聞いたことがある人、聞いたことがない人、さまざまかもしれません。

ダイバーシティだけではなく、「ダイバーシティマネジメント」や「ダイバーシティ&インクルージョン」などの言葉もあります。

これらには、どのような意味があり、どのようなことをしていくことなのでしょうか。

そこで、本記事では、ダイバーシティとインクルージョンに焦点を当て、それらの意味と、企業の取り組みについて見ていきます。

ダイバーシティとは?

ダイバーシティ(diversity)は日本語で「多様性」という意味があります。

「多様性」とは、「いろいろな種類や傾向のものがあること。変化に富むこと」ということです。

ビジネスシーンでは、「人には、いろいろな種類や傾向の人がいる。変化に富んでいる」「人はみな、違う」といえるでしょう。

インクルージョンとは?

インクルージョン(inclusion)は日本語で「包括」「包含」という意味があります。

「包括」とは、「全体をひっくるめてまとめること」、「包含」には、「つつみこみ、中にふくんでいること」ということです。

ビジネスシーンでは、「いろんなタイプの人をつつみこみ、チームの中にふくんでいること」といえるでしょう。

ダイバーシティ&インクルージョンとは?

ダイバーシティ&インクルージョンは、ダイバーシティとインクルージョンの意味を合わせたものです。つまり、「いろいろな種類や傾向のものや、変化に富んでいるものをつつみこみ、中にふくんでいること」といえます。

ビジネスシーンでは、「いろいろな種類や傾向の人や、変化に富んでいる人をつつみこみ、チームの中にふくんでいること」といえるでしょう。

ビジネスシーンにおけるダイバーシティ

ビジネスシーンでダイバーシティといえば、ダイバーシティ&インクルージョンの意味で使われることが多いです。

「日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」報告書の概要によれば、ダイバーシティの定義は次のようになっています。

ダイバーシティとは、「多様な人材を活かす戦略」である。

従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず、多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想をとり入れることで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人のしあわせにつなげようとする戦略。

出典:「日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」報告書の概要 | 文部科学省

つまり、「多様な人材を積極的に活用しよう」という考え方です。

ビジネスシーンにおけるかつてのダイバーシティは、人種や国籍、LGBTをはじめとする性的指向などを問わずに、社会的マイノリティ(少数者)の就業機会の拡大を意図して使われる言葉でした。

一方、近年では、外見、年齢、性別、性格、学歴、働き方、宗教、価値観など、より広い範囲で使われるようになってきました。

ダイバーシティの重要性が求められるようになった背景

ダイバーシティの重要性が求められるようになった背景には、「日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」報告書の概要にもあるように、変化の早いビジネス環境に柔軟に対応していくことが挙げられます。

また、近年では、日本社会が抱えている諸課題を解決するためにも、ダイバーシティの重要性が叫ばれるようになりました。

例えば、高齢化社会による労働人口の減少、出産や育児期を迎えた女性の「本当は働き続けたいのに、会社を辞めなければならない」現状、首都圏への人口集中など、日本にはさまざまな諸課題があります。近年、日本政府が掲げている「女性の活躍」や「一億層活躍社会」「ワークライフバランス」などのキーワードがまさにそれです。

つまり、ダイバーシティとは、人が持つさまざまな違いを問わずに(受け入れ)、有能な人材を活かし、生産性を向上させることを指す言葉となっています。

本来の意味は「それぞれの人が尊重されること」

一方で、「多様な人材を活かす戦略」「多様な人材を積極的に活用しよう」という考え方に、違和感を覚える方もいるかもしれません。

筆者はどちらかといえば、違和感を覚えるタイプです。なぜなら、「活かす」や「活用する」は組織側の考え方で、「女性の活躍」は男性視点の考え方です。つまり、「どちらか一方から、他方をみた捉え方」です。

また、「一億層活躍社会」という言葉には、「国民全部が活躍しなければならない」のような、やや強制的な印象を受けます。もちろん、スローガンとしては大切かもしれませんが、中には、そう思っていない人もいるかもしれません。

本来のダイバーシティの言葉の意味、「人には、いろいろな種類や傾向の人がいる。変化に富んでいる」からすれば、性別や年齢など、さまざまな属性は関係なく、それぞれの立場はフラットのはずです。それぞれの人が尊重され、それぞれの意見が受け入れられ、それぞれの人が才能を生かしてイキイキと働けること……それが、本来の意味でのダイバーシティだと考えます。

どのような取り組みをすればいいのか?

では、どのような取り組みをすればいいのでしょうか。

東洋経済オンラインの、最新「ダイバーシティ企業」トップ200によれば、ランキングの評価は、次の項目で行われたそうです。

評価は、①(ダイバーシティ推進の)基本姿勢(満点12点)、②多様な人材活用(同12点)、③女性の活躍(同33点)、④育児・介護(同19点)、⑤働きやすさ(同28点)の5部門。各部門の評価項目(6ページ目に掲載)を得点化し、それらを合計した総合得点(満点104点)でランキングを行った(データは2012年時点)。

出典:最新「ダイバーシティ企業」トップ200 | 東洋経済ONLINE

 

2013年のランキングでは東芝がトップで、具体的な取り組みとしては、

トップは東芝で総合得点は94点。同社は「多様性の受容と尊重」「ワーク・ライフ・バランスの実現」「意識風土の改革」を3つの柱とし、ダイバーシティ推進を進める。また、女性比率、女性役職比率とその男女差、外国籍従業員数、障害者雇用比率などをKPI(重要業績評価指標)として、数値の目標も設定している。

出典:最新「ダイバーシティ企業」トップ200 | 東洋経済ONLINE

となっています。このようにみてみると、「これは大企業だからできることだ。うちには本格的に取り組むだけのリソースがない」のように思われる方もいるかもしれません。制度を変えることは、かなりのリソースをかけないと、すぐに実現できませんよね。

ダイバーシティの入り口は「働きやすい職場づくり」

制度を整えることも大切かもしれませんが、本来の、「いろいろな種類や傾向の人や、変化に富んでいる人をつつみこみ、チームの中にふくんでいること」というダイバーシティ&インクルージョンの意味に立ち返れば、働きやすい組織、職場環境を作っていくことが入り口だなのではないかと考えます。

例えば、性別や年齢など一切関係なく、それぞれの人が持つ価値観や考え方を自由にいえること、それらが「いい/悪い」で判断されるのではなく、「そういう考え方もあるよね。あってもいいよね」と受け入れられること(つまり、インクルージョン)……これらは「制度」ではなく、コミュニケーションやコミュニティの改善です。

このようにみてみると、ダイバーシティは決して特別な考え方ではなく、働く人々にとっての「働きやすい職場づくり」という、いたってごく自然なプロセスであることが分かります。「それぞれの人が尊重された、働きやすい職場づくり」がダイバーシティの入り口なのです。

「働きやすい職場」から生まれるもの

働きやすい職場なら、自然と業績にもつながるはずです。なぜなら、それぞれの人が持つ才能が最大限に活かされるからです。

けれども、ややもすると、業績を伸ばすこと、利益を上げること、成長することをダイバーシティの目的にしてしまいがちです。また、ダイバーシティを数値で捉えすぎると、「女性の管理職○%」「障がい者の雇用率○%」のように、数値目標を達成することを目的ににしてしまいがちです。

もちろん、企業ですから業績や利益を伸ばすことも大切ですし、数値目標を達成することも大切です。しかし、これらはすべて結果であって、本来の目的ではありません。

本来の目的は、年齢や性別などの属性に関係なく、一人一人が尊重されしあわせに働けることです。楽しく働ける活気のある職場から多様な視点の意見や、今までなかった新しいアイデアが生まれ、その結果、それぞれの人の才能が正当に評価されバランスのいい人の構成となり、その結果、業績、利益へとつながっていくのです。

米国のコンサルティング会社マッキンゼー社では、次のように語っているそうです。

ダイバーシティと財務リターンの間には相関関係はあるが、因果関係が認められるわけではない。すなわち、ダイバーシティを高めることで自動的に高利益が約束されるとは言い切れないということだ。しかし、少なくともこの相関性から「企業は多様なリーダシップを取り入れることで、より成功する」ことが見えてくるという。また、多様性の高い企業は優れた人材を獲得でき、顧客志向や従業員満足度、意思決定の精度などの向上が見込め、これらは好循環を生んでいくとマッキンゼー社は語る。

出典:【国際】マッキンゼー・アンド・カンパニー、ダイバーシティの重要性について言及 | Sustainable Japan

まとめ

今、多くの組織や職場には、さまざまな課題があります。かつての「作れば売れる」時代でもありません。時代の変化も早いので、「こうすれば上手くいきます」という、過去のベストプラクティスを調べて、それを当てはめても、上手く行かない時代になりました。

だからこそ、性別や年齢など関係なく、それぞれの人が持つ「こうすればいいんじゃない?」を自由に言い合えること、それらをすぐに批評、批判するのではなく、「そういう考え方もあるね」と受け入れられること。そのような、多様な考え、多様な視点の中から、その組織にしかできない解決策を見出していくこと……。

それが本来の、ダイバーシティ&インクルージョンではないかと考えます。

投稿者プロフィール

竹内義晴
竹内義晴NPO法人しごとのみらい理事長
1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。

メールマガジン

MAIL MAGAZINE

メールマガジンをお読みになりませんか?

コミュニケーションやチームづくり、自分との関わり方、これからの働き方など、「楽しくはたらく」ヒントをお送りしています。