コーチングとは何か?―定義と目的、必要な能力
コーチングとは、問題解決や課題達成、目標の実現など、さまざまな課題を解決し、夢や目標を具体的な「形」にしていくために行います。柔軟な思考と行動をサポートするための、コーチとクライアント(コーチングを受ける人のこと)との間で結ばれるパートナーシップです。
コーチングは、見る角度によって、その説明や解釈が変わります。ある見方をすれば、「コーチングとは、人材を育てるためのサポートプログラムだ」といういい方もできるし、ある見方をすれば「コーチングとは、コミュニケーションの手法だ」とも表現できます。
また、コーチングには……
- 人材育成 vs 個人の成長
- 心の豊かさ vs リアルな行動
- 対象はクライアント vs 対象は自分
- 教育 vs ビジネス
など、いろんな分け方ができます。つまりコーチングは、「何を望むのか」によって答えが変わってくるともいえます。
コーチングで扱う範囲は広く、ひと言で説明するのはとても難しいのですが、ここでは「コーチングとは何か」を、初めての人でも分かりやすい説明を試みます。そして、誰もがコーチングに触れる機会を持ち、あなたの目標達成や理想の実現に向けて「今、何をすべきか」を提示したいと思います。
なお、ここでは、「ビジネスパーソンが、コーチングを仕事やビジネスに生かす」という前提で見ていきます。
コーチングとは何か―コーチングの定義
一般的な定義
まず、コーチングの一般的な定義についてみてみましょう。Wikipediaには次のように紹介されています。
コーチング(coaching)とは、人材開発の技法の一つ。対話によって相手の自己実現や目標達成を図る技術であるとされる。相手の話をよく聴き(傾聴)、感じたことを伝えて承認し、質問することで、自発的な行動を促すとするコミュニケーション技法である。
語源は英語のcoach(コーチ。「馬車」という意味)とされています。馬車には、「人を目的地まで送り届ける」という目的から、coaching(コーチング)は「対象者の目標やゴールに向けて支援すること」ともいわれています。
しごとのみらいの定義―コーチングとは「人の成長を支援するツール」
次に、「コーチングとは何か」をしごとのみらい的にひと言で表現してみます。私たちは、「人や組織の可能性をひらき、成長を支援するツール」としたいと思っています。
「成長を支援する」とは、心や体の成長はもとより、学習意欲やビジネスの成長など、あらゆる成長を意味しています。
「ツール」とは、「コーチングが目的ではない」ということです。ツールは目的を達成するための手段です。それ自体が主体ではありません。同様に、主体はコーチにはありません。常にクライアントにあります。
コーチングにおける目標の現実化
コーチングで大切な「目標やゴール」
コーチングでは、目標やゴールを大切にしています。もう少し簡単に言うと、「こうなったらいいな」「ああなったらいいな」などの「理想」です。目標やゴールは、「よし、これを乗り越えよう」「ああ、もっといい人生を歩みたいな」のように、人が成長する機会となり、新たな夢や希望を抱くきっかけとなります。
目標やゴールは、大きいものでもいいし、小さなものでもかまいません。なぜなら、どんなに小さな目標でも、それはいずれ、大きなものへと育っていくからです。
子どもの頃、「野球選手になりたい」「宇宙飛行士になりたい」など、あなたも夢や希望を描いたことが一度ぐらいはあると思います。夢や希望は人の意識を未来へと、前へと導いてくれます。コーチングのゴールとは、夢や希望のような「心のよりどころ」ということもできるでしょう。
目標やゴールを実現するために必要なことは?
コーチングでは行動も大切にしています。行動とは、夢や希望を叶えるための源泉です。さらに、行動の原動力となるのは、あなたの中にある「これを実現したい」という感情であり、その感情を抱く動機です。
「こうなりたい」「こうありたい」という動機によって自然と行動が生まれ、自然とやる気が生まれ、自然と結果へと、導かれていくのです。
一方、時には行動的になれないこともあります。その場合はゴールを明確にし、具体的な行動計画を立てること。そうすることで、未来が見えます。心が動きます。やりたくなります。そして、「何のためにそれをするのか」を具体的にすること。それが、コーチングの動機づけであり、行動の原動力となります。
ですから、コーチングは、「モチベーションを維持、管理するためのツール」ということもできます。
コーチングやり方と必要なスキル
ここまでは、コーチングの概論について触れてきましたが、ここからは少し、テクニカルなお話もしておきたいと思います。
「テクニカルな話」とは、どのようにやるのか、進めるのか、どんなスキルを使うのか、また、コーチングをする人(つまり、コーチです)になるためには、何が必要で、何を学ぶ必要があるのか……ということです。
コーチングの進め方
コーチングは主に、「質問」と「傾聴」を主体としたコミュニケーションを使います。
コーチがクライアントにある質問をする。クライアントはその答えを考え、答える。さらにコーチはそれに対して質問をし、クライアントはその答えを考え、答える……コーチング型のコミュニケーションは、この繰り返しです。
アドバイスは、あまりしません。もちろん、ゼロではありませんが、基本的にはクライアントの主体性を大切にしています。ここでいう主体性とは、「自分で考え、自分で答えを見つける(または、見いだす)」ことです。自分で考え、答えを見いだす。だからこそ、行動につながるのです。
コーチに必要なスキル・能力
コーチングが「人の成長を支援すること」ならば、コーチには、成長を支援するだけの、さまざまな能力が求められそうです。
そこで、コーチに必要な主なスキルや能力をまとめてみました。
コミュニケーション能力
コーチングでは、質問力や傾聴力など、コミュニケーション能力が求められます。コミュニケーション能力については、コミュニケーションカテゴリの記事も参考になさってください。
ビジネススキル、及び、経験
コーチングでは、行動を支援するために実務的なビジネススキルが求められます。特にビジネスシーンでは、知識に加えて経験が求められます。
メンタル面をコントロールするための心理学的な知識
どんなに高い目標やゴールを掲げていても、ビジネスシーンでは計画通りに行かないことや失敗することが多々あります。そのような場合、クライアントは悩み、挫折し、メンタル的に落ち込むこともあります。
コーチングでは、クライアントの心のケアができる必要があります。つまり、コーチとは、メンタルトレーナーでもあるのです。
コーチングが役に立つ人、立たない人
コーチングには、役に立つ人と立たない人がいます。成長意欲がない人(または、組織)には、残念ながらコーチングは役に立ちません。
モチベーションが低いこと自体は悪いことではありません。今、モチベーションが低くても「モチベーションを上げたい」という意欲を持っている人には役に立ちます。「今がどうか」ではなく、未来に対して「どうなりたいか」「どうありたいか」ということです。
そういう意味では、コーチングが役に立つか、立たないかは「クライアントの意思に掛かっている」といういい方もできます。
コーチングをビジネスシーンで生かすために
コーチングとは「人の成長を支援するためのツール」ですが、ビジネスシーンではどのように役立つのでしょうか。
ここでは、個人向けの「パーソナルコーチング」と、法人向けの「ビジネスコーチング」の2つに分けて見ていきます。なお、ここでいう「ビジネスコーチング」は、一般的には必ずしも「法人向け」というわけではありません。「ビジネス向けの」という意味合いで使われています。
パーソナルコーチング
パーソナルコーチングは、「個人の成長を支援するコーチング」です。対象は個人であり、扱うテーマは人それぞれです。
例えば、次のようなテーマがあります。
- 起業・独立する
- チームマネジメント/チームビルディング(チームをまとめる)
- プロジェクトマネジメント(仕事をうまくまわす)
- 個々人が持つ目標を実現する
- メンタルをマネジメントする
- 人間関係を改善する
パーソナルコーチングでは、費用を支払うのは個々人で、自身の成長のために、意志ある人が取り組んでいます。
ビジネスコーチング
ビジネスコーチングは、個人というよりも、法人として扱うような、やや大きなテーマを扱います。例えば……
- 働きやすい組織を作る
- 社員を育成する
- 業績を上げる
- 社員のメンタル面をサポートする仕組みを作る
コーチングの対象となる人(受ける人)は個人であることが多いですが、場合によっては、管理職の複数人の話し合いで、コーチがファシリテーターとして関わる場合もあります。
支払いは法人の場合がほとんどです。
ビジネスコーチングは、「コーチング型コンサルティング」といういい方もできます。組織として関わる分、より、実務経験が必要となります。
現在のコーチングの問題点
しかしながら、コーチングにはいくつかの課題もあります。
スキルやテクニックの習得に偏っている
コーチングを学んだ人の意見を聞くと、資格の習得や方法論など、その目的がスキルやテクニックを磨くことに偏っていることが散見されます。また、「コーチングを導入すれば、部下が動く」のように、コーチングを受ける、または、導入することが目的になってしまっている声も少なくありません。
もちろん、方法論も大切ですが、スキルやテクニックだけでは、解決しないことも少なくありません。「何のためにコーチングを学ぶのか」「コーチングを学んだ結果、周囲がどうなるのか」「そのためには、どういうあり方が大切か」など、コーチングを学ぶ、受ける、取り入れる「本質」を、今一度考える必要がありそうです。
感情面がフォローされていない
また、現在のコーチングでは、あまり感情面がフォローされていません。
コーチングは「質問型のコミュニケーションである」といわれています。質問は、コーチング型のコミュニケーションであることは事実であり、非常に大切なことには間違いはありません。
しかし、「目標(ゴール)は?」「現状は?」「目標と現状のギャップは?」「それを埋めるための行動は?」のように、頭で考える(思考する)コーチングでは「何をするか」は明確になっても、感情が動かないため行動につながりにくい場合があるほか、過剰な質問は責め立てられる、追い詰められる印象があり、これを嫌う人も少なくありません。
これらを解決するためには、クライアントの存在「どうありたいか」を引き出し、寄り添いながらコーチングをしていく必要があります(参考:being、doing、havingの違いと全てを引き出すコーチング術)
感情とは本来、とても豊かで、行動の源泉となる大切なものです。
まとめ
コーチングとは何かについて見てきました。
冒頭でもお話したように、コーチングとはその範囲が非常に広いため、ひと言では言い表せません。それでも、「人(または、組織)の成長を支援するツール」ということは、お分かりいただけたのではないでしょうか。
もちろん、コーチングを受けたからといって、または、取り入れたからと言って、課題がすぐに解決するわけではないし、夢や目標が叶うわけではないかもしれません。けれども、さまざまな課題が多い現代社会だからこそ、人や組織の可能性をひらき、成長を支援するツールは、必要不可欠になってくるのではないかと考えています。
投稿者プロフィール
- 1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。
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